思春期にさしかかる小学校高学年から中学生くらいになると、ダイエットに興味を持つお子さんが多くなります。しかし「食べない」ダイエットは、成長を阻害したり、心身の病気につながったりしてしまうことも。今回は、管理栄養士・成田崇信さんのお話から、子どものダイエットの危険性とその対処法を考えます。(この記事は2018年時点の情報に基づいて作成しています)
目次
中学生のダイエット事情
保護者
最近、うちの娘が「ダイエットするから、朝ご飯はいらない」と言い出しました。成長期ですし、無理なダイエットになってしまわないかと心配しています。
教室長
それは心配ですね。先日、管理栄養士の成田崇信さんにお話をうかがう機会がありましたが、小学生や中学生のあいだでもダイエット志向が広まりつつあることを危惧されていました。若い女性を中心に「やせているほうがきれい」という価値観が定着し、「やせたい」という願望が広まっていると言われています。一方で優子さんが心配されているように、無理なダイエットで健康のリスクが高まることも、一般的に広く知られていることですね。こうしたダイエット志向が小学校高学年から中学生まで広がっていて、その低年齢化が問題になっているんだそうです。
保護者
中学生でも心配なのに、小学生でダイエットですか! それは怖いですね。
保護者
成田さんもここ20年ほどで特に若い女性を中心にダイエット志向が高まっているとおっしゃっていましたね。
教室長
過去に厚生労働省が実施した国民健康・栄養調査報告(※)では、「やせすぎや太りすぎでない体重を維持すること」についての意識調査が行われています。「改善したい」と答えた人の割合がいちばん多かったのは40歳代で、男性では約53%、女性では約58%でした。また男性は20歳代から「改善したい」人が増え始めますが、女性では15~19歳の約54%が「改善したい」と答えています。一方で20代~30代では全体の7割が「普通体重」であり、多くの人が適正な体重でありながら「やせたい」と考えていると思われます。
保護者
メタボリックシンドロームも話題になりましたし、40歳代の多くの人がやせたいと考えているようだという結果には納得です。男性より女性のほうが若い世代からやせたい人が増える傾向があるというのも、興味深いですね。
保護者
適正体重なのにそれ以上にやせたいと思ってしまうのは、どうしてなんでしょうか?
教室長
「やせたい」と考えている人が多い原因には、テレビに出ているタレントがやせていることの影響はもちろん、各種メディアでダイエット法や食品などの情報が氾濫していることなどがよく挙げられます。
保護者
なるほど! メディアの影響力は確かに大きそうですね。
教室長
地域的、文化的な差はあるものの、30代後半くらいまでの若い世代は「やせているほうがきれい」「太っているとかわいくない」といった価値観が広まっていると、成田さんもおっしゃっていました。この世代のお子さんの世代、つまり現在3歳くらいから高校生くらいのお子さんもこうした価値観のなかで育っているので、「やせたい」という気持ちを持ちやすいんだそうです。
保護者
「やせたい」「ダイエットしたい」という気持ちはわかりますが、子どもの健康のことを考えると無理なダイエットはしてほしくないと思います。
教室長
成田さんも「間違った食事制限によるダイエットは健康な成長を妨げるだけでなく、拒食症や不妊につながる危険性もある」と指摘されていました。思春期・成長期のダイエットには注意が必要です。
成長期の無理なダイエットの危険性
保護者
私の学生時代の同級生に行き過ぎたダイエットで拒食症になり、学校に来られなくなった女の子がいました。中学生がダイエットをすることにはどんな危険性があるのか知っておきたいです。
教室長
成長期の中学生くらいのお子さんに必要な栄養素は種類も量も多く、1日三食しっかり食べることが望ましいと言われています。たとえば、朝ご飯を食べる習慣がないお子さんは、「ご飯とスープだけでも食べていこうね」ですとか、「豆乳だけでも飲んでね」と声をかけることで、ある程度栄養補給を促すことができると、成田さんもおっしゃっていました。ところが、ダイエットの問題では、保護者が環境を整えても本人が「食べたくない」と食事をしなくなってしまうことが、対処が難しいところなんだそうです。
保護者
うちの娘も「食べたくない」「いらない」と言うことがあります。栄養のことを考えると食べてほしいのですが…。
教室長
成田さんによると、第二次性徴にさしかかる中学生くらいのお子さんは、栄養学的には特にカルシウムや鉄が必要になる時期とのことです。間違った食事制限によって栄養が足りなくなると、カルシウムが不足して筋肉や骨といった身体の組織の成長が阻害されたり、鉄不足で深刻な貧血になったりする場合もあるそうです。
保護者
無理なダイエットによる栄養の偏りで貧血になってしまうというのは、聞いたことがあります。
教室長
貧血になると血液が酸素を運ぶ機能が低下して、集中力が落ちる、スポーツのパフォーマンスが落ちるということも予想されるそうです。特に女の子では月経がとまってしまった例もあるとのことでした。
保護者
月経がとまってしまうなんて深刻ですね…。その前になんとかしたいです。
保護者
最初に拒食症の話が出ましたけれど、拒食症といえば心の病気ですよね?
教室長
成田さんによると「拒食症」は、間違ったダイエットが引き起こす病気の1つで「神経性食欲不振症」といって神経科の領域にあたるそうです。拒食症の症状としては、拒食と過食をくり返して、嘔吐を伴うことがあります。嘔吐することが習慣になると逆流性食道炎を併発することもあり、ますます食事がとりづらくなります。成田さんは「拒食症は予後不良(=治療後の経過や見通しがよくないこと)であることが知られていて、一度なってしまうと再発率は高く、生涯にわたって影響を及ぼす」ともおっしゃっていました。
保護者
拒食症は再発率が高いというのは、知りませんでした。うちの娘がもし拒食症になったらと思うと、とても怖いです。
教室長
中学生や高校生のときに拒食症になると、慢性的な栄養不足などによって月経不順を引き起こすだけでなく、食べられるようになっても無排卵月経になってしまうこともあり、将来の不妊症の原因にもなると、成田さんもその危険性を指摘していました。このように、極端なダイエットは現在だけでなく将来の健康にもリスクがあります。思春期・成長期にはダイエットをしないことが一番の予防策だと言えるのではないでしょうか。
子どものダイエットが心配…。保護者ができることとは?
保護者
ダイエットといえば、娘のお友だちのお母さんから「給食を食べない」というダイエットがあると聞いて驚きました。
教室長
成田さんによると、たとえば「給食を抜く」というのは、心理学的な要因では「集団のなかでの子どものふるまい」と言えるとのことです。10代のお子さんは周囲に同調しやすい傾向があり、たとえば「給食なんて食べたら太っちゃうよね」と誰かが言い出してしまうと、「私も食べない」「食べたら負け」といった心理的働きが起こりやすいんだそうです。
保護者
子ども同士のそういう心理的な動きは、自分が子どものころもあったような気がします。まわりのお子さんに同調しているなら、なおさら保護者の言うことは聞かないかもしれませんね。
教室長
そうですね。特に思春期のお子さんは、食べていないことを頭ごなしに否定しても、保護者に隠してでも、無理なダイエットを続けてしまうということも考えられます。
保護者
思春期のダイエットのお話を聞いていると、うちの子は大丈夫かと心配になってしまいます。「食べたくない」という子どもに対して、保護者はどんなふうに対処していけばいいのでしょうか?
教室長
お子さんがどうしても言うことを聞かない場合は、家庭でルールをつくることが必要だと成田さんはおっしゃっていました。たとえば、「○○kgになったらダイエットをやめる」「食事はしっかり三食食べること」とルールを決めて、「食事の内容などに協力するから、このルールは守ろうね」と声をかけるのがいいだろうということです。
保護者
頭ごなしに否定せずに、よく話し合うことが必要になりそうですね。万が一、拒食症が疑われるときには、どう対応するべきでしょうか?
教室長
拒食症や過食症になってしまう要因には、「やせたい」という願望以外に、別のストレスや不安など精神的な要因もあるということも、よく指摘されています。成田さんも、食事以外の問題を抱えている場合もあるので、医療機関の受診も含めて、家庭環境や友だち関係など多面的なアプローチが必要だとおっしゃっていました。
保護者
そのほかに大人ができることには、どんなことがありますか?
教室長
保護者がしてはいけないこととして、お子さんの前でお父さんがお母さんに「ちょっとはやせたら?」などと言ってはいけないと、成田さんは挙げていました。「太っている=わるい」というイメージを保護者がお子さんに植えつけるような言動は避けるべきでしょう。
保護者
「適正体重や望ましい食事の内容を、家庭や学校も含めて、大人がお子さんに正しく伝えていくことが大切だ」と成田さんもおっしゃっていましたね。
教室長
はい。たとえば肥満度の指標によく使われるBMI値では、身長150㎝くらいなら適正体重は52kg~53kgになります。お子さんが「40kg台の体重でないとかわいくない」などと言っていても、適正体重を計算して「なにもおかしくないよ」「健康的な体重だよ」としっかりと伝えてあげたいですね。
保護者
ここまでお話してみて、確かに私たち保護者の世代も「やせているほうがきれい」という価値観を持っていると気がつきました。この機会に、適正体重や健康のために望ましい食事について、子どもと一緒によく調べてみようと思います!
(※) 平成17年国民健康・栄養調査報告|厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou07/01.html
第4部 生活習慣調査の結果PDF
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou07/dl/01-04.pdf
【監修】成田崇信(なりた・たかのぶ)
1975年東京生まれ。管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学を経て、現在は社会福祉法人に勤務するかたわら、ペンネーム・道義寧子(みちよしねこ)名義で主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。栄養学の妥当な知識に基づく食育書「管理栄養士パパの親子の食育BOOK」(メタモル出版)を執筆。共著に「各分野の専門家が伝える子どもを守るために知っておきたいこと」(メタモル出版)、謎解き超科学(彩図社)、監修として「子どもと野菜をなかよしにする図鑑 すごいぞ! やさいーズ」(オレンジページ)などに携わっている。