~webメディア評論家・落合正和さんインタビュー~
インターネットやモバイル端末の普及が進み、今や中高生でもスマートフォンを持ち、SNSを利用するのが当たり前の時代になりつつあります。一方でSNSをめぐるトラブルをニュースなどで目にすることも多くなり、お子さんがSNSを利用することに不安を持つ保護者も多いのではないでしょうか。SNSをめぐるトラブルにはどんな事例があり、それを防ぐためにはどうすればよいのか。今回は、SNSの専門家でもあるwebメディア評論家の落合正和さんにお話をうかがいました。
目次
中高生に人気のSNSは「Twitter」と「Instagram」
教室長:今回は中高生の利用が圧倒的に多いSNSについて、中高生の利用の仕方やSNSを活用することによって起こるトラブルや対策などをおうかがいします。ネットメディア評論家でありWEBメディアコンサルタントである落合さんは、ネット事件やセキュリティ、SNS、ネット動画配信サービスに関する解説をよく行っていらっしゃいます。
母:まずはSNSとは、どんなものなのかについて教えていただけませんか?
教室長:SNSは「ソーシャルネットワーキングサービス」の略で、インターネット上でさまざまな人と交流することができるサービスの総称です。
母:FacebookやTwitterが有名ですよね。中高生の間では、主にどんなSNSが使われているのでしょうか?
落合正和さん:今、中高生の間で非常に人気があるのは、TikTok(ティックトック)、MixChannel(ミックスチャンネル)、YouTubeといった動画投稿・共有型のSNSです。それから、動画や画像を共有できるカメラアプリのSNOW(スノー)、Snapchat(スナップチャット)も人気がありますね。定番のSNSであるTwitterやInstagramを使っている中高生も多いです。Facebookは中高生の間ではそれほど人気はありませんが、やはり定番のSNSの1つです。
母:LINEを使っている中高生も多いようですが、LINEはSNSに含まれますか?
落合正和さん:LINEは一般的にはメッセンジャーアプリとしての認識だと思いますが、SNSの機能も有しています。SNSのひとつといって良いでしょう。ただし、特定のメンバー同士のみでメッセージや情報を共有することが多いので、Twitterなどと違い「クローズなSNS」ですね。
母:最近は、スマートフォンでできるゲームも増え、中にはオンラインで遊べてチャット機能がついているゲームも多いようですね。チャット機能がついているゲームもSNSに含まれるんでしょうか?
落合正和さん:そうですね。オンラインゲームのチャット機能も、SNS的な機能を持っているとは言えます。ソーシャルメディアという大きな括りで言えば、ブログや掲示板サイトも、参加者同士が知識や知恵を教え合うQ&Aサイトとも包含(ほうがん)されることもあります。どこまでをSNSとするかは難しいところです。
母:広い意味でみるとSNSって、いろいろな種類があるんですね! 「みんな使っている」とうちの子は言うんですが、中高生のSNS利用率はどれくらいなんでしょうか?
教室長:総務省の平成29年の調査(※)では、13歳~19歳のインターネット利用率は約97%で、スマートフォンの保有率が約80%となっています。同じ年齢層のソーシャルネットワーキングサービスの利用者の割合は約70%でした。なお、この調査では動画投稿・共有サイトのTikTokや無料通話アプリのLINEは、SNSとは別の項目となっています。
落合正和さん:TikTokやLINEをSNSに含めると、中高生のSNS利用率は90%以上だろうと私は考えています。むしろ複数のアプリを使っているケースのほうが多いと思いますね。
母:やっぱり中学生、高校生になると使っているお子さんが多いんですね。SNSでのトラブルもあると聞きますし、保護者としてもSNSとの付き合い方について無関心ではいられません。
軽い悪ふざけのつもりが将来にも影を落とす「バイトテロ」
母:ニュースなどでSNSのトラブルを目にすることも多くて、保護者としては子どもにSNSを利用させることに対して不安な気持ちもあります。SNSに関係するトラブルにはどんなものがあるんでしょうか?
落合正和さん:今、とくに話題になっているのは、いわゆる「バイトテロ」という事例ですね。最も古い事例の1つに、足立区のステーキ店でアルバイト従業員がふざけて冷蔵庫に入り、その画像をSNSに投稿して大きな騒動になったケースがあります。この投稿が多くの人の目に触れ「不衛生だ」と、数多くのクレームが寄せられました。結果的にステーキ店を経営していた企業は、その店舗を閉店せざるをえませんでした。
母:たった1枚の写真が原因で閉店してしまうなんて…。お店側の損害は大きかったでしょうね。
落合正和さん:企業としても1つの店舗を失い、従業員たちも職を失うことになったわけです。私も当時、知り合いの弁護士に損害賠償になった場合の金額を聞いてみましたが、2,000万円ほどの損害賠償を求めることが可能だろうという話でした。ほかにも、あるホテルのレストランに有名人のカップルが食事に来たところをアルバイト従業員が投稿してしまった事件や、芸能人夫婦が新居を探しにきたと不動産仲介業の従業員が投稿してしまった事件など、「バイトテロ」のような事例は多々あります。ホテルや不動産業は顧客のプライバシー保護が重要視される業種ですから、企業としても信用問題になり、その被害額は数億円になるケースもあるという判断をする専門家もいるほどです。
教室長:不適切な情報を投稿してしまうと、想像以上に深刻な被害が出ることがあるんですね。
落合正和さん:こうした事件を起こすのは、高校生か大学生のアルバイト従業員が多いとされています。本人はその場のノリで悪気なく投稿したと思われますが、一度、炎上し拡散してしまうとその影響は一生残ります。
母:一生影響が残るというのは、どういうことですか?
落合正和さん:いわゆる「デジタルタトゥー」と言われるケースです。一度炎上するとたった1回の投稿でも急速に拡散してしまい、情報を完全に削除するのは困難になることから、こう呼ばれます。とくに怖いのは、当人の過去の投稿まで探られて、通っている学校やアルバイト先から、本名や住所、顔写真などまでインターネット上にバラまかれるという事態が起こってしまうことです。最近では、企業の人事担当者が応募者の名前を検索して、どんな人物なのかチェックするということも行われていますから、就職活動に影響が出ることも考えられます。
母:個人情報まで拡散してしまうなんて、本当に怖いですね。
落合正和さん:今、こうした事件が増えていると言われていますが、1つの学校の1学年あたり約100人のお子さんがいる中で、大きなニュースとなってしまった事件は数件ですから、みなさん正しいモラルを持ってSNSを使っているとも言えます。ただ、事件を起こしてしまった時には、生涯に渡って影響が残る。軽い気持ちで、あるいはその場のノリで投稿してしまうのは、非常に危険なことなんだと、中高生のみなさんには伝えていきたいと思っています。
トラブルを未然に防止。親はどうやって伝えたらわかりやすい?
母:自分の子どもに同じことを起こさせないようにするためには、どんな対策ができるでしょうか?
落合正和さん:実際のトラブル事例をできるだけ多く見てもらうことが、一番の予防策だと思います。自動車免許の更新で教習所に行くと、死亡事故を起こした人の人生が真っ暗になってしまったという映像を見せられますよね。それと同じです。
母:他にも、親が子どもに働きかけることができる予防策はありますか?
落合正和さん:ニュースを見ながら親子で話し合ったり、新聞にSNSトラブルの記事があったから読んでみてとすすめたりしてもいいでしょう。「SNSでこういうことをするとこんなトラブルになって、一生を棒にふるような結果になる可能性があるよ」と、ふだんから家庭でも話題にしてください。みんな頭では、やってはいけないことだとわかっているんです。ただ、その場のノリで盛り上がって、危機意識が飛んでしまう瞬間が一番危ない。その瞬間に保護者の顔が浮かんで、「今、危ないことをしようとしていた」と気づけるくらい、ふだんからSNSトラブルについての会話に時間をとってほしいと思います。
SNSを利用するときには「写真」の位置情報に注意!
教室長:そのほかにSNSを利用するうえで気をつけたほうがいいことには、どんなことがあるのか教えていただけますか?たとえば、個人情報はどこまで登録していいものなのでしょうか?
落合正和さん:どこまで登録していいのかはSNSによって変わってきます。たとえば、LINEなどクローズドなSNSで実際の知り合いしか見られないという場合は、ある程度の情報の登録範囲を広めてもリスクは高く無いかもしれません。一方、Twitterなどは基本的にはオープンなSNSですから、世界中の人が目にする可能性があると考えたほうがいいでしょう。公開範囲の設定など、それぞれのSNSの特性をよく理解する必要があり、一律に「ここまではOK」とは決められません。ただし、ふだんは何事もなくても、何か問題が起きた時に個人情報を悪用される可能性も考えられます。SNSのプロフィールは必要最低限の情報だけにしぼったほうが安全だという認識は持っていたほうがよいと思います。
母:投稿した画像から個人情報を特定されてしまうという話もよく聞きますが…。
落合正和さん:写真についてまず気をつけたいのは、スマートフォンやデジタルカメラで撮影した画像の位置情報です。SNSによって自動削除される場合とされない場合がありますから、投稿する前によく確認しましょう。また、自分の部屋の窓から見える景色、部屋に置いてあった通販の段ボールに貼られた伝票、近所の電信柱についている番地など、画像や動画に写り込んだ背景から個人情報を特定されたケースが実際にあります。個人情報を特定されたために、いわゆるストーカー的な被害にあうこともありますので注意が必要です。また、学校の行事で撮った写真を投稿したら、背景にほかの人が写り込んでいて「写真を勝手に投稿された」とトラブルになる例もありました。
母:写真の位置情報や写り込みに注意、ですね。なにげない写真のつもりでも、いろいろな情報が読み取れてしまうことがあるんですね。
落合正和さん:ほかにも、外出先の様子をリアルタイムに投稿することで、自宅が留守であることを知られて空き巣や泥棒に入られたり、今いる場所を特定されたりすることもあります。この場合は、家に帰ってきてから旅行の写真を投稿するなど、時間をずらして投稿する「時差投稿」といったテクニックが有効です。優子さんがおっしゃったように、投稿からいろいろな情報が得られるという認識を持ちましょう。
母:LINEなどでのトラブルがいじめになったケースも聞いたことがあります。
落合正和さん:はい。特定のグループで交流できるクローズドなSNSで、ある人の悪口がずっと続いたり、グループから一方的にのけ者にされたりといった、いじめのような状況になってしまうこともよくある事例です。
母:やはり、チャットでの言葉の行き違いがきっかけになることが多いのでしょうか?
落合正和さん:チャットは基本的には文字だけのやりとりですから、直接会話する時のように相手の表情を見て「怒っているかな」「冗談だと伝わったな」ということが判断できず、行き違いが起きやすいツールでもありますね。また、メールなどに比べて、やりとりのスピードがとても速いので、人間関係が円滑にいかなくなってしまうきっかけを作ってしまうケースもあります。人とよい関係性を保つためにも、表情が見えない相手とのコミュニケーションであるということをきちんと意識することが大切です。相手の反応をより注意深くチェックしながら使っていきましょう。
教室長:人間関係に溝を作るきっかけにもなるチャットですが、反対にチャットで意気投合して仲が深まるケースもありますよね。もしお子さんが、リアルではつながりがなかったけどSNSで知り合って仲良くなった人と「実際に会いたい」と言った時には、どう対応するべきでしょうか?
落合正和さん:中高生であれば、インターネットで知り合った人と会わないほうが賢明です。よくあるケースで、お互い中学生だということで会ってみたら、相手は成人男性だったという事例もあります。そこで性的被害を受けたり、買春などの犯罪に巻き込まれたりする可能性もあります。海外では男の子が被害を受けた例もありますから、男女ともに注意してあげたいですね。
子どものSNSトラブルを防ぐ最善策は、「SNSの利用を制限しない」
母:バイトテロをはじめ、いろいろなトラブルの例を聞きましたが、細かいところまで気をつけるべきことがたくさんあって、うちの子にSNSを使わせるのが不安になってしまいました。
落合正和さん:保護者が不安に思う気持ちもわかります。だからと言って、「SNSは使ってはいけません」「投稿をやめましょう」などと禁止するのは間違いです。これからの時代、スマートフォンやSNSがなくなることは絶対になく、反対にどんどん進化していきますから、SNSを上手く使えるようになったほうがよいですよね。これは車の運転によく似ています。免許を取ったばかりの時は、感覚がつかめずにこすってしまうこともあります。それでも経験を積むうちに、こういう運転をすると危険なんだと肌で感じて、大きな事故にならない運転ができるようになっていく。このように、SNSを将来適切に使う必要に迫られたときに、十分な経験を積んでいれば、大きな問題を起こさない使い方ができるはずです。
母:では、うちの子にSNSとの付き合い方を教えようと思った時には、どのように教えてあげたらよいでしょう?
落合正和さん:家庭や学校で「SNSは禁止」とか、「18時以降は使わない」と決められていることがよくありますが、私はまったく逆効果だと思います。だんだん慣れさせるという意味でも、年齢や経験値に応じて、使う範囲を徐々に広げていくのがおすすめです。たとえば、最初は家族だけのグループから始めて、慣れてきたから「クラスの友だちまでいいよ」、次は「学校の友だちまではいいよ」というふうに広げていきます。また、時間制限を一方的に決めてもお子さんは隠れて使いますから、安易に「1日1時間まで」などと制限しないほうがよいと思います。慣れるまでは、保護者が「スマートフォンを見せて」と言ったら見せるというチェック体制を作っておきましょう。常識的な範囲内の時間は守るよう伝えたら、あとはお子さん自身で管理したほうが、時間の管理の仕方も身につきやすいでしょう。
母:私はデジタル機器が苦手で、あまりSNSにも触れてこなかったんですが、それぞれのSNSごとの機能や特性をよく知るためにもどんどん使っていったほうがよさそうですね。
落合正和さん:はい。保護者もこれからインターネットやデジタル機器を使わないでいては不便になりますし、安全性やリスク回避の方法を知らないままでは危険ですから、どんどん利用して感覚を身につけていったほうがいいと思います。
教室長:ここまではSNSにまつわるトラブルやリスクのお話をうかがってきました。最後に、SNSのメリットの部分も教えていただけますか。
落合正和さん:正しく使っている分には、プラスの作用のほうが大きいと思います。たとえば、インターネットやモバイル機器が普及する以前は、学校が終われば友だちとのコミュニケーションはほぼ断絶されていました。そう考えると今はコミュニケーションの時間制限がなくなった時代と言えます。それぞれが自宅にいながら、友だちとのコミュニケーションがあることで勉強をがんばれたり、励ましあったり、そこに競争心が生まれたり。正しく使えば、SNSは気軽にコミュニケーションがとれる便利で楽しいツールです。中高生も保護者のみなさんも、何が危険で、どうすればトラブルを避けられるのか、自分の感覚でとらえられるように積極的に使っていってほしいと思います。
(※)平成29年通信利用動向調査の結果(概要)(総務省/平成30年6月22日発表)
(プロフィール)
落合正和(おちあい まさかず)
マーケティングコンサルタント、Webメディア評論家、ブロガー。株式会社office ZERO-STYLE代表取締役、一般財団法人モバイルスマートタウン推進財団専務理事。2007年よりマーケティングコンサルタントして活動。2010年よりブログ運営と、ソーシャルメディアマーケティングに注目。「ネットストーカー」や「こどもの動画投稿」などSNS活用のアドバイスを提供、セミナーを開催している。日本で初めてFacebook解説のブログを立ち上げ月間300万PVを達成した。現在はテレビ、ラジオ、新聞、Webメディアなどでの解説、Webメディアのプロデュース、ネットリテラシーに関する講演など、幅広く活躍している。
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