そもそも「食育」とは?

 

教室長:今回お話をうかがうのは管理栄養士としての見地から「食と健康」に関する情報を書籍やインターネットで発信していらっしゃる管理栄養士の成田崇信さんです。

 

母:ここ数年で「食育」という言葉をよく聞くようになりました。小学校や中学校でも食育を行っているようです。そもそも「食育」とはどういうものなんでしょうか?

 

成田崇信さん:「食育」の推進は、2005 (平成17) 年に施行された「食育基本法」(※1)によって始まりました。食育基本法では次のように書かれています。「子どもたちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身に付けていくためには、何よりも『食』が重要である。今、改めて、食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置付けるとともに、様々な経験を通じて『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる食育を推進することが求められている。」

 

母:思ったよりも最近のことなんですね。

 

成田崇信さん:そうですね。特にお子さんに対する食育では、家庭、学校、地域が連携し、食に対する知識を向上させようという取り組みがされています。心身の健康のために必要な食べ物を自分で選べるように、望ましい食事、バランスのよい食事とはどういうものなのかを学ぼうということが食育にほかなりません。そのため、食育基本法では、地域の食文化や日本の伝統的な食事を学ぶこと、食べ残しの削減などについても論及されています。

 

教室長:食育基本法が制定された背景(※2)には、栄養バランスの偏った食習慣や、朝食の欠食といった食生活の乱れ、中学生くらいまでのお子さんの肥満の増加、思春期における痩せすぎのお子さんの増加などが挙げられますね。

 

成田崇信さん:はい。ただ朝食の欠食はここ数年で改善傾向にあります。なにが問題なのかというと、朝食の欠食率というのは小学生ではそれほど高くありませんが、中学生、高校生と学年が上がるほど欠食率も上がっていきます。そして、大学進学や就職などで親元を離れると朝食をとらない人の割合はさらに増加します。だからこそ、小学生や中学生のうちから「朝食をとることが大切なんだよ」と伝えていくことが重要です。

 

母:確かに、成長期の食事の内容や食習慣は、大人になってからの健康にも関係してきますよね。そういうことも含めて「食育」なんですね。朝食と言えば、毎日朝食をとるお子さんと、そうでないお子さんの学力に違いがあるというような話も聞いたことがありますが、それって本当なんですか?

 

成田崇信さん:朝食の欠食と学力の関係が指摘されることもありますが、栄養上の問題というよりは、むしろ家庭環境の差ではないかと考えられています。朝食を毎日とれる環境にあるご家庭は、保護者がお子さんの生活をしっかり見ていたり、親子関係がうまくいったりしている可能性が高いでしょう。そういった学力に関係するほかの要因から、「朝食をとる」習慣と相関関係にあるものと考えられています。つまり、朝食をとったから栄養状態がよくなって学力が上がるというよりは、家庭環境が学力に影響しているのではないでしょうか。

 

母:なるほど。栄養面だけでなく、家庭環境においても朝食は大切なんですね。

 

成田崇信さん:そうですね。もちろん栄養学的に見ても、成長期のお子さんは3食しっかり食べないと十分な栄養をとりにくくなってしまいます。成長するために必要な栄養を確保するためにも、朝食をとる習慣は本当に大事なことなんです。

 

 

家庭でできる「食育」とは?

 

成長期の子どもの「食」を考える。家庭でできる「食育」アドバイス~管理栄養士・成田崇信さんインタビュー~2

 

母:保護者としては、家庭でも食育をしたいと思っています。「家庭でできる食育」についてアドバイスをいただけませんか?

 

成田崇信さん:お子さんは保護者の習慣を本当によく見ています。まずは、大人である保護者がおいしく楽しく食べている姿を見せることが大切だと思います。

 

母:「食育」と聞くと栄養バランスのよい献立を3食しっかりつくらなくてはと思っていたので「おいしく楽しく」というのはすこし意外です。

 

成田崇信さん:「食育」は毎日手の込んだ料理をつくらなくてはいけないということではありません。「今日はあなたの好物をつくるよ」とお子さんのリクエストに応える日があってもいいですし、忙しい日はお惣菜を買ってきたり外食にしてもいいでしょう。食事を楽しむことがいちばん大切なことで、食事の内容についてはいろいろな日があっていいと思います。

 

母:お惣菜や外食で、栄養のバランスは大丈夫ですか?

 

成田崇信さん:たとえば主食になる惣菜を買ってきた日には、野菜のたくさん入った汁物をつくるなどして栄養を補ってあげるといいでしょう。そのとき、どうして惣菜だけでなくもう1品足したのか、その理由を話すことで保護者が食事に気をつけている姿を見せることができます。「栄養バランスをとるためにスープをつくったんだよ」、「この食材にはこういう栄養があるんだよ」といった食事中の会話も食育の一環です。毎日の食事をとおして、食べ物のおいしさ、食事の楽しさ、栄養についてなど、お子さんと一緒に考え、体験していくということが食育を毎日続けるためのポイントです。

 

母:毎日ちゃんとした食事をつくらないといけないと思うと大変ですが、惣菜や外食も活用していいと聞いて気が楽になりました。保護者も食事を楽しむ気持ちを大切にしたいですね。

 

成田崇信さん:食事は毎日のことですから、完璧にするのは大変です。すこしずつ工夫してみてください。ほかにも、お子さんと一緒に魚釣りに行って釣れた魚を調理して食べたり、ハイキングに行って木の実をとって食べたりということもいい経験になります。身近にできる食育としては、スーパーや八百屋さんに一緒に買い物に行って、「これは食べたことがないけど、食べてみる?」とお子さんと一緒に食材を選ぶのもおすすめです。できるだけ幅広く「食」に関する体験に触れさせてあげましょう。ふだんの暮らしや遊びのなかで、「食」を楽しむことや、栄養と健康について一緒に学んでいくことを意識してみてください。

 

 

栄養バランスのよい献立を考えるコツ

 

成長期の子どもの「食」を考える。家庭でできる「食育」アドバイス~管理栄養士・成田崇信さんインタビュー~3

 

母:家庭で献立を考えるときには、どんなことに気をつければいいでしょうか?

 

成田崇信さん:学校の給食をイメージするといいと思います。主食になるごはんやパン、メインになるタンパク質が豊富なおかず、副菜のサラダや和え物、みそ汁などの汁物。こういった定食型の献立ですと、栄養バランスが大きく崩れるということはあまりありません。

 

母:確かに、給食をイメージするとわかりやすいです。

 

成田崇信さん:小中学生の食事状況を調べた、厚生労働省の「日本の小中学生の食事状況調査」(※3)という資料があるのですが、こうしたデータで、給食がある日と給食がない日の栄養摂取状況を比べると、給食のない日はビタミンやミネラルといった微量栄養素をきちんととれているお子さんと、そうでないお子さんの差が大きくなります。

 

母:給食を食べているかどうかで、栄養バランスに差が出るお子さんがいるんですね。

 

成田崇信さん:そのとおりです。給食のない日に栄養バランスが崩れてしまう原因は、昼食ではないかと考えられます。データからは、ごはんや麺などの主食量と塩分や脂質は減っていないことがわかります。給食がない日の昼食を丼(どんぶり)ものや麺類といった1品だけのメニューにするケースが多いことが原因ではないかと予想しています。

 

母:確かに、休みの日のお昼食は簡単に1品ですませることが多いです。

 

成田崇信さん:昼の献立はやはり難しいですよね。とは言え、「昼食はラーメンだけ」という献立になってしまうのはなるべく避けましょう。牛乳を一緒に飲むようにするだけでもずいぶん違いますよ。牛乳は学校給食の栄養価の要と言われるくらい、栄養価が豊富なものです。牛乳が飲めないお子さんの場合には、ヨーグルトなどの乳製品を食べることで栄養を補いたいですね。

 

母:昼食を簡単にすませたいときにできる工夫はありますか?

 

成田崇信さん:家庭の献立では豆類を使うことがすくないとよく言われます。大豆のままでは使いにくいと思いますが、豆腐や油揚げなどの大豆加工品は比較的使いやすいと思います。たとえば、市販の煮豆や豆腐を使った白和えなどを1品つけてあげるといいでしょう。ラーメンに炒め野菜を乗せたり、丼(どんぶり)ものの副菜として茹で野菜にマヨネーズをつけて食べるだけでも効果がありますよ。

 

母:「あと1品」に野菜を使うことはありましたが、乳製品や豆類は意識していませんでした。昼食だけでなく、朝食や夕食でもすこしずつ工夫して栄養バランスのとれた食事をつくっていきたいと思います。

 

 

食品添加物は避けたほうがよい?安全な食品の見分け方

 

成長期の子どもの「食」を考える。家庭でできる「食育」アドバイス~管理栄養士・成田崇信さんインタビュー~4

 

母:食品添加物や産地を気にする保護者も多いですが、やはり気にしたほうがいいでしょうか?

 

成田崇信さん:現在、国内の食品添加物に関する基準はとても厳しくなっています。添加物を使った加工食品を一生食べ続けても、よほどの量を短期間に食べなければ身体に影響はないという状況です。ですから、添加物を厳密に排除するメリットはあまりないと思います。輸入食品も同様に厳しい基準が設けられているので、神経質になりすぎる必要はありません。

 

教室長:添加物や輸入食品に対して神経質になりすぎるよりも、「食」を楽しむほうがお子さんにもよい影響がありそうですね。

 

成田崇信さん:そうですね。ただ、風味を向上させたり、見た目をよくしたり、保存がきくようにするために、甘味料、着色料、保存料などの添加物が使われている加工食品は、本来の食品の鮮度やおいしさが感じられない傾向があります。加工食品を使った料理だけに偏らないよう、素材の味を感じられる料理も食べさせてあげてください。ところで、食品の安全ということで言うと、生鮮食品が身体にとって危険な場合があることをご存じですか?

 

母:加工していない自然のままのほうが健康によいイメージがありますが、いったいどういうことですか?

 

成田崇信さん:極端な例になりますが、じゃがいもの芽に毒があることを知っている人は多いと思います。 じゃがいもの芽に含まれるソラニンという毒素は、日光に当たって緑色になった皮や、未成熟な小さいじゃがいもにも多く含まれることがわかっています。学校の授業で栽培したじゃがいもは、皮が緑色のものや、小さなものができやすく、これらを食べて中毒症状が出てしまった例が多く報告されているんですよ。

 

母:自然のものだから安全というわけではないんですね。

 

成田崇信さん:「自然のものだから大丈夫」という先入観から、よく洗わなかったり加熱が不十分なまま食べてしまうのはとても危険です。そう考えると、加工食品のほうが安全な場合もあります。保護者も、お子さんも、ぜひ正しい「食」の知識を身につけてください。

 

 

受験期の子どもの食事について

 

成長期の子どもの「食」を考える。家庭でできる「食育」アドバイス~管理栄養士・成田崇信さんインタビュー~5

 

母:うちの子は受験をひかえているので、受験期の食事についても興味があります。たとえば塾で夕食が遅くなってしまったときはどんな食事がいいでしょうか?

 

成田崇信さん:そうですね。油ものは多くしないほうがいいでしょう。脂質は成長期に必要な栄養素ですが、夕食が遅くなってしまったときは消化吸収がわるい油ものはやや少なめにしてあげてください。それからサラダのような生の野菜も消化しにくいので、野菜はよく加熱したスープや煮物にするのがおすすめです。消化のよい夕飯を意識すると翌朝胃もたれして、朝食が食べられないということも避けられます。

 

母:なんとなく身体にいいと思って出していた生の野菜が消化しにくいとは知りませんでした。夕食が遅くなったときはスープなどで野菜を出そうと思います。 夏期講習などで1日中塾に行くときはお弁当を持たせているんですが、お弁当のメニューで気をつけたほうがいいことはありますか?

 

成田崇信さん:昼食のメニューと同様に、お弁当のメニューでも主食が多くなりがちです。ですから、ごはんはひかえめにして、肉や魚、野菜などのおかずをしっかり詰めてあげることで栄養バランスのよいお弁当になるでしょう。一口サイズのチーズを保冷剤と一緒に入れてあげたり、最近流行りの保温ポットに野菜たっぷりのスープを入れてあげたりするのもおすすめです。

 

母:お子さんの受験前日の食事をどうすればいいのか悩んでいる知り合いがいたのですが、受験前日に気をつけたほうがいいことはありますか?

 

成田崇信さん:ふだん食べ慣れないものを食べると、腸内細菌のバランスが崩れて胃腸のトラブルになることがあるので、前日には食べ慣れたものを食べさせてあげたいですね。それ以外は、緊張しているお子さんをリラックスさせるためにも、好きなものを食べさせてあげればいいと思います。げんを担いでとんかつというのも、お子さんが喜んでくれるならいいと思います。

 

教室長:成田さんはご自身の記事で、「食」に関する情報がインターネットを中心に氾濫していることを指摘されていますが、お子さんの食事について保護者が正しい情報を得るためには、どんなことに気をつければよいか教えていただけますか?

 

成田崇信さん:特定の食品を指して「○○を食べると健康になる」といったものや、反対に「不健康なのは○○のせいだ」といった内容のサイトの情報は疑ったほうがいいでしょう。それ以上は判断がつきにくいので、公的なサイトを参考にしてください。たとえば、食事の内容に関して私がおすすめしているのは厚生労働省の情報です。まず、厚生労働省のサイトや、もしくは厚生労働省の指針に準拠した情報を出している一般サイトを参考にされるとよいと思います。

 

母:お子さんのためにも、情報収集は慎重にならないといけませんね。

 

成田崇信さん:インターネット上には間違った情報や根拠のないうわさ話があふれています。「食」に関する情報も例外ではありません。「健康のためによいことをしたい」と子育てに一生懸命な保護者ほど、こうした情報を過剰に信じてしまうことがあります。しかし、誤った情報はお子さんの健康を害することにもつながりかねません。情報の妥当性を意識して調べてください。

 

教室長:ありがとうございます。最後に、お子さんの「食」に悩む保護者にメッセージをお願いします。

 

成田崇信さん:お子さんの食事について悩んでいるということは、お子さんのことをよく考え、大事に思っている証拠です。栄養について意識するのは大切ですが、完璧でなくても問題ありません。毎日の生活のなかで、1つ1つできることに取り組みながら、肩の力を抜いて、お子さんと一緒に「おいしく楽しく」食べましょう!

 

 

(※1)食育基本法(平成17年6月施行) 農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/pdf/kihonho_28.pdf

(※2)厚生労働省:「食を通じた子どもの健全育成(-いわゆる「食育」の視点から-)のあり方に関する検討会」報告書について
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/02/s0219-3.html

(※3)平成27年度「日本の小中学生の食事状況調査」厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/05-1.pdf

 

 

(プロフィール)
成田崇信(なりた・たかのぶ)
1975年東京生まれ。管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学を経て、現在は社会福祉法人に勤務するかたわら、ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。栄養学の妥当な知識に基づく食育書『新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK』(内外出版社)を執筆。共著に『各分野の専門家が伝える子どもを守るために知っておきたいこと』(メタモル出版)、『謎解き超科学』(彩図社)、監修として『子どもと野菜をなかよしにする図鑑 すごいぞ! やさいーズ」(オレンジページ)などに携わっている。