自閉症スペクトラムとは、従来、自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群などと呼ばれていたものを、1つの障害として考えるためにつけられた名称です。では、自閉症スペクトラムにはどのような特徴があり、家庭や学校ではどのように対応するべきなのでしょうか? 今回は小児科の医師で、長年、発達障害の子どもたちの医療に携わっている榊原洋一さんにお話をうかがいました。
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目次
自閉症スペクトラムの3つの特性
母:自閉症やアスペルガーという言葉は聞いたことがありますが、「自閉症スペクトラム」は耳慣れない言葉ですね。自閉症スペクトラムとは、どういう意味ですか?
榊原洋一さん:自閉症スペクトラムとは、発達障害の分類の1つで、スペクトラムとは「連続体」という意味です。典型的な自閉症の特徴が全部そろっていなくても、それに似たいくつかの症状がある場合、「広く1つの障害としてとらえよう」という動きがあり、自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群などと呼ばれてきた障害が、現在は自閉症スペクトラムと呼ばれています。
母:典型的な自閉症の特徴とは、どんなものですか?
榊原洋一さん:そもそも子どもの自閉症は、1943年にアメリカ人医師のレオ・カナーによって、初めて報告されました。大きく分けて①言葉の遅れ、②対人関係の障害、③独特のこだわり・感覚過敏の3つの症状がある、と言われています。
母:それぞれ具体的にはどんな症状なのでしょうか?
榊原洋一さん:まず幼少期に気づきやすいのは①の言葉の遅れですね。定型的な発達では3歳ころからだんだん話せるようになりますが、自閉症のお子さんの場合は全く発語がないこともあります。 ②の対人関係の障害というのは、他人の表情を読んだり気持ちを理解したりすることが苦手なために、人とのコミュニケーションがうまくとれないということです。特に保育園や幼稚園、学校などに通うようになると集団行動する場面が増えますが、その場の雰囲気や全体に出された指示が理解できないので、集団に入っていけず1人だけ浮いてしまうということがあります。 さらに、③の独特のこだわりや感覚過敏があります。感覚過敏で一番多いのは、音に対する過敏です。大きな音がすると耐えられないほど不快に感じることがあり、大声を出してしまったり、その場から逃げてしまったりということがあります。独特のこだわりというのは、その程度や対象が一般的なお子さんとはすこし違うんですね。たとえば、ミニカーばかりで遊ぶというのはどんなお子さんでもありますが、自閉症のお子さんの場合、きっちり並べないと気がすまないとか、ミニカーのタイヤだけに興味があるとか、対象がやや変わっているということがあります。
教室長:では、「自閉症スペクトラム」と言う場合はいかがですか?
榊原洋一さん:自閉症スペクトラムとは、今言った3つの典型的な症状がすべてそろわなくても、それに似た症状がある場合を指します。たとえば、アスペルガー症候群という名称はみなさんも聞いたことがあると思いますが、これも自閉症スペクトラムの分類の1つです。アスペルガー症候群とは、自閉症の3つの典型的な症状のうち、言葉の遅れはないものの、人の気持ちを理解できない、対人関係につまずきがある、それから独特の強いこだわりがある、あるいはなんらかの感覚過敏がある。これがアスペルガー症候群と呼ばれてきたタイプで、現在は自閉症スペクトラムの1つのタイプと考えられています。
母:自閉症とアスペルガー症候群は違うものというイメージでしたが、主な症状から考えると確かに同じ障害の仲間だとわかりやすいですね。
榊原洋一さん:さきほど言ったような3つの典型的な症状は、幼少期からみられるものですが、成長するにしたがって大きく2つに分かれるという見解があります。1つは、言葉の遅れがずっと続くタイプです。知識というのは言葉で覚えていくものですから、言葉が使えないということは、知的な発達にも遅れが出ます。自閉症スペクトラムのなかのお子さんは、程度に重い軽いの差はありますが、知的障害を伴います。
教室長:自閉症スペクトラムのなかでも、典型的な自閉症と言えるタイプですね。
榊原洋一さん:そうです。残り2~3割の子どもは、言葉がある程度出てきて、知的な遅れがない、今まではアスペルガー症候群や高機能自閉症と呼ばれてきたタイプです。はっきりとした境目をつけるのは難しいところもありますが、定義上、最初は言葉の遅れがあったけれどだんだんと追いついてきた場合を高機能自閉症と言います。一方のアスペルガー症候群は、言葉の遅れがない、むしろ言語能力が高いためにIQが高いこともあるタイプです。これらのタイプは、言葉の遅れは目立ちませんが、対人関係につまずきがあり、独特のこだわりや過敏症があるという、自閉症スペクトラムの主な特徴があります。
母:言葉の遅れは目立たないけれど、典型的な自閉症の症状があるタイプもあるんですね。
榊原洋一さん:はい。自閉症スペクトラムの中核的な症状は、対人関係の障害と言えます。人とかかわることがうまくできない障害とイメージすると、わかりやすいのではないかと思います。
診断の基準とは? どんな機関に相談するべき?
母:うちの子が自閉症や自閉症スペクトラムかもしれない、などと感じたときにチェックできるリストのようなものはありますか?
榊原洋一さん:たとえば、肺炎や糖尿病を疑った場合には、血液検査やレントゲンなどの臨床検査をすることで医師が診断をしますね。ところが、精神的な疾患や発達障害の場合にはこうした検査では診断がつきません。たとえば、うつ病は血液検査ではうつ病かどうかはわかりませんね。では医師はどうやって見立てをするかというと、その人の症状から見立てるしかありません。自閉症スペクトラムかどうかをチェックする時には、基本的に、保育園・幼稚園や学校などの集団の場面でどのように過ごしてきたかを、保護者や先生に聞くことで経過をみていきます。
母:対人関係に難しさがあるのが自閉症スペクトラムのお子さんの特徴ということですから、学校などの社会的な場面での様子をチェックするんですね。
榊原洋一さん:そのとおりです。ほんの一例ですが、具体的には以下のような特徴がみられます。 ・勉強はできるが友だちとの接触がない。 ・集団で行動する場面で1人だけ浮いてしまう。 ・授業中はおしゃべりしないなど、暗黙のルールがわからない。 ・お子さん同士で遊ぶときの遊びのルールが理解できない。 ・特定の音が苦手で大きな声を出したり、逃げたりすることがある。 ・独特のこだわりがあり、急な予定の変更やルールの変更に対応できない。
母:なるほど、特徴的な症状についてはイメージできてきたと思います。ここに挙げられたような症状が出る原因について、わかっていることはあるのでしょうか?
榊原洋一さん:脳科学の研究によって、あることをしたときに脳のどの部分を使っているかがある程度わかるようになってきています。自閉症スペクトラムのお子さんたちに共通して言えるのが、人の顔の表情を見る部位や、人の気持ちを理解する部位、さらに自分の感情をコントロールする部位などで、機能の低下がみられるということです。脳の機能の障害となんらかの関連があると言われているんですね。
母:ADHD(注意欠陥多動性障害)や学習障害(LD)などの発達障害も、生まれつきの障害であると聞きますけれど、自閉症スペクトラムでも同じことが言えるんですね。
榊原洋一さん:ほかにも、おそらく20以上の遺伝子の組み合わせによって、さきほど挙げたような脳の機能が十分に伸びない状態であるということがわかっています。さらに言えば、自閉症のお子さんがいる家庭の家系をさかのぼると、自閉症の人がいない家庭に比べて、自閉症のお子さんがいることが多いことがわかっています。きょうだいのあいだでの発症率に注目すると、二卵性双生児では二人とも自閉症スペクトラムを発症する確率は5~10%です。ところが、一卵性双生児では二人とも発症する率は40~98%と高くなります。このことからも、自閉症スペクトラムを発症する原因は、育てられ方や家庭の環境にあるのではなく、遺伝子とのかかわりが深い生まれつきのものであるということがわかります。
母:自閉症スペクトラムのお子さんは、全国にどのくらいいるんでしょうか?
榊原洋一さん:自閉症スペクトラムは発達障害の1つです。代表的な発達障害にはほかに、注意力の不足や多動性・衝動性を伴うADHD(注意欠陥多動性障害)や、読む・書く・計算するなどに困難がある学習障害(LD)があります。専門家のあいだでは自閉症スペクトラムの人は、大人もお子さんも含めて全人口のおよそ1.5%と推測されています。またADHD(注意欠陥多動性障害)は約4~5%、学習障害(LD)は約3%と言われています。自閉症スペクトラムの割合が少なく感じるかもしれませんが、決して少ない数ではありません。
教室長:平成28(2016)年に日本で生まれた子どもは約98万人(※1)ですから、その1.5%では1万人以上になる割合ですね。
母:日本全体でみると1学年に1万人以上ですか。それは確かに多いですね。
では、子どもの自閉症スペクトラムについて相談したいときは、どんな相談先がありますか?
榊原洋一さん:専門的な診断・治療を受けるのに最適な診療科は、小児神経科や児童精神科です。最近では、発達障害の専門外来がある病院も増えています。こうした診療科が自宅の近くにない場合は、かかりつけの小児科に相談してみるのも1つの方法です。必要がある場合には専門医を紹介してもらえるでしょう。
教室長:精神科と聞くと敷居が高く感じる人もいるかもしれませんね。
榊原洋一さん:その場合は、自治体の保健福祉センターや子育て支援センターといった身近な相談窓口を利用するのもいいでしょう。育児の悩みから、自閉症スペクトラムの疑いを感じた時には、専門的な医療機関を紹介してくれることもあります。
母:自閉症スペクトラムは、治療によって治るものなんですか?
教室長:薬や手術、訓練によって完全に治るものではありません。その人が生涯付き合う特性と考えたほうがいいでしょう。ただし完治はしませんが、適切な支援を受けることができれば、本人が抱える生活面での難しさや、社会的な生きづらさは軽減することができます。お子さんについて違和感を覚えることがあれば、できるだけ早くだれかに相談することが大切です。
家庭や学校で気をつけたいことは?
教室長:自閉症スペクトラムの特徴について、ここまでは幼児期の症状を中心にお聞きしましたが、特に中高生について行動傾向や特徴に違いはありますか?
榊原洋一さん:言葉の遅れや知的な遅れがある、自閉症スペクトラムの7~8割にあたる典型的な自閉症である場合は、現状の日本では普通級にいることがなかなか難しいです。そのため、特別支援学校や特別支援学級に通うお子さんがほとんどです。ですので、中学校や高校に通っているお子さんは、知的な発達が正常範囲にある残りの2~3割の高機能自閉症やアスペルガー症候群のお子さんであると考えてお話します。 自閉症スペクトラムに分類されるような障害があっても、子どもというのはさまざまな経験を通して、対人的なコミュニケーションを含めて苦手なりに学習していきます。ですから、幼児に比べれば中高生のほうが、自分にはどんな特徴があるかということを理解しています。
母:周囲と自分の違いがわかるんですね。そう考えるといいことのように思えますが?
榊原洋一さん:一見いいことのように思えますが、マイナスに働くこともあるんです。1つは非常にひっこみ思案で、集団に入ることを避ける傾向が出ることがあります。中学生、高校生の年ごろのお子さんたちは、俗な言葉で言うと「いじり合う」ことを好みます。自閉症スペクトラムの子どもたちは経験的に学習して、同級生と楽しく会話することもできるけれど、そうしたコミュニケーションが難しく、1人でいることを好むことも多くあります。 もう1つ、中高生くらいの年ごろで多いのは、「被害念慮(ひがいねんりょ)」と言われる傾向です。対人的なコミュニケーションに難しさがありますから、1人浮いてしまったり、仲間外れにされたりすることで、「どうして自分は理解されないんだろう」と悩んだり、「まわりからいつも自分が批判されている」と感じて落ち込んでしまったりすることが多い、ということが言われています。
母:こうしたお子さんたちが学校に通う上でストレスになることには、ほかにどんなことがありますか?
榊原洋一さん:まず言えるのは、相手の気持ちを理解しなければいけないような活動は嫌がるということです。たとえば、大人数での一斉授業は集中して聞くことができます。逆に、少人数でのグループ学習は、グループのあいだでの意思疎通が必要になるので、どちらかというと苦手とします。 それから、急な予定の変化に弱いのも特徴の1つです。自閉症スペクトラムの特徴の1つである強いこだわりから、一度決めた手順ややり方にこだわりを持ち、状況によって変えることが苦手な傾向があります。たとえば、「次の授業は数学の予定でしたが、急きょ、体育にします」と言われると、どう対応していいかわからなくなってしまいます。また、時間の観念がうまくとれない傾向があるために活動を途中でやめたり、急に始めたりすることが苦手です。ですから、急に「はい、ここでやめましょう」と言われても納得できないことがあります。 さらに、比喩や反語、疑問形を入れたようなあいまいな指示の出し方をされると、理解することができません。「あなたがいいと思うところまでやりなさい」「もうすこしがんばって」。こうした指示では「もうすこしって、どのくらい?」とまじめに考えて混乱してしまうんですね。
母:家庭のなかで困りがちなことはどんなことでしょうか?
榊原洋一さん:家庭では保護者もお子さんの特性や対応のしかたを知っていますから、学校に比べてストレスは少ないです。ただ家庭のなかでも、予定の変化に弱いので、できるだけ毎日朝起きてから夜寝るまでを「〇時〇分に起きる。〇分に顔を洗う。〇分に食事をする」というように、規則正しいスケジュールを組んであげると本人は楽でしょう。また場所の変化にも不安を感じる傾向があるので、「顔を洗うのはここ」「着替えはここ」「勉強するときはここ」というように決めておきます。こうした時間や場所のルールは、紙などに書いて貼りだしたり、本人にメモをもたせたりすることで、よりわかりやすくなります。これは時間や場所の「構造化」と呼ばれる方法です。
母:学校で感じがちなストレスも同じように対応できそうですね。
榊原洋一さん:そうですね。学校でもできるだけ時間や場所を構造化すると本人が楽に過ごすことができるでしょう。1日のスケジュールはなるべく時間割どおりに、予定の変更があるときはできるだけ時間に余裕を持って、変更があることを伝えます。教室を移動するようなときも「空いている席に座りなさい」というのは難しいので、「何番の席を使います」と伝えたいところです。 それから、指示を出すときはあいまいな表現は使わず「何ページまで」「何分まで」と、できるだけ明示的な指示を出すことが望ましいです。また全体への指示はとおりにくいということも気をつけたい点です。「このプリントを4時までやってください」という全体への指示を自閉症スペクトラムのお子さんは理解できません。ですから、一対一で対面して「〇〇くん、4時までやろうね」と言ってあげることが必要です。 さらに聴覚的な刺激が入りにくい傾向があるので、視覚的な指示を併用するといいということもよく言われます。視覚的にわかるように「終了15分前です」「最後まで答えを書いてください」といった指示をカードに書いて見せることで、よりスムーズに指示を理解することにつながります。 そのほかに、少人数での共同作業はできるだけ減らし、一人でやれる課題を増やすということもストレスを軽減させるのに効果的です。急にやめたり始めたりするのが苦手なことに対応するには、残り時間に印が表示されるタイマーなどを活用するのもいいでしょう。
母:発達障害のお子さんは対応も難しいのではないかという印象でしたが、いろいろな方法があるんですね。 特性を知って適切な対応をすることが大切なんだとわかりました!
特別支援学校に行くべき? 日本のインクルーシブ教育の課題
教室長:さきほど、典型的な自閉症のお子さんは特別支援学校や特別支援学級へ行くことが多いというお話がありましたが、そうした学校や学級へ通わせる基準はあるのでしょうか?
榊原洋一さん:まず、自閉症スペクトラムのお子さんが学校に通うにあたっての課題は、大きく分けて3つあります。1つ目は、学業の面です。言葉の遅れや知的な遅れがない場合でも、たとえば、「このときの作者の気持ちを述べよ」といった国語の課題などは、人の気持ちを理解することが難しい自閉症スペクトラムのお子さんにとって非常に難しいものです。2つ目は社会性の低さです。集団のなかで共有するような雰囲気やルールがわからないので、1つ1つ明示的に教える必要があり、まわりの人からの適切な支援が求められます。3つ目は感情の不安定さです。特定の聴覚的な刺激などで急に落ち着かなくなったり、パニックになったりすることもあります。 こうした課題から考えると、まず学校の授業の内容がある程度、理解できるかどうかということが1つの大きな基準です。また勉強はできても、パニックになる場面が多くて席に座っていられない場合は、より専門的な対応が望める特別支援学級に行くことが多いと思います。
母:1人ひとりのお子さんの状態を見て対応しているということでしょうか?
榊原洋一さん:はい、実は一定の基準というのはないんです。ただ、世界的にはインクルーシブ教育を進めようという動きが活発になっています。インクルーシブ教育とは、障害のあるお子さんも、障害のないお子さんと同じ教室や学校で、ともに教育を受けるという意味です。なぜインクルーシブ教育がいいのかお話しします。まず同年代の子どもたちには、嫌がったり悪い態度をとったりする子もいれば、逆にサポートする子などいろんなタイプのお子さんがいるでしょう。そのなかにいることで、自閉症スペクトラムのような障害を持つお子さんのコミュニケーションスキルがよく伸びることが、経験的にわかっているからです。
母:日本でも、インクルーシブ教育は進められているんですか?
榊原洋一さん:私の著書やブログ(※2)でも指摘していることですが、現在の日本では発達障害のお子さんへの対応が担任の先生に任されている状態で、普通級では対応できていないのが現状です。世界的な動きとは逆に、日本では特別支援学校や特別支援学級に通うお子さんが増えています。私はこうした現状は、先生方だけの責任ではなく、国全体として体制を再検討するべき課題だと考えています。
母:ここまで先生のお話をうかがって、自閉症スペクトラムという障害があっても、適切なサポートがあれば学校や、あるいは塾にも通えると感じました。
榊原洋一さん:たとえば、イタリアではインクルーシブ教育の考え方のもとに、特別支援学校は廃止されています。普通級のなかで、障害のあるお子さんたちにどのように教えていくかということが、日本ではこれからの大きな課題です。
得意なことを見極めて、進学や就職を考えよう
母:うちの子が自閉症スペクトラムとわかったら、まず心配になるのが進学や就職のことではないかと思います。その点はいかがでしょうか?
榊原洋一さん:アスペルガー症候群のように、知的な遅れが目立たない場合には、高校受験や大学受験も可能ですし、むしろいい成績をとる人もいます。というのも、自閉症スペクトラムの人の特性として、比較的得意な科目と苦手な科目が分かれるんですね。
母:どんな科目が得意なんですか?
榊原洋一さん:自閉症スペクトラムの人は、実は計算や暗記が得意なんです。ですから、理科や算数は比較的入りやすい科目と言えます。いわゆる理系の科目ですね。理系は事実がすべてなので、方程式を覚えたり、計算をしたりということは、あまり苦になりません。国語でも漢字を覚えたりするのは得意なんですよ。社会では、地名や史実を覚えるのは得意ですが、社会の仕組みを理解したりするのは、すこし難しいかもしれません。 もっとも苦手なのは、国語の長文読解のような課題です。「作者の意図はどれか」「この段落でなにを言おうとしているか」といった問いは、人の気持ちを考える問題ですから、自閉症スペクトラムのお子さんにとって非常に難しいものになります。
教室長:自閉症スペクトラムのお子さんのなかには、いわゆるギフテッドと呼ばれるような、特殊な才能を持ったお子さんもいるとよく言われますね。
榊原洋一さん:サヴァン症候群とも呼ばれる人たちですね。音楽や絵画で並外れた才能を持っているお子さんもなかにはいます。いずれにせよ、自閉症スペクトラムのお子さんに対して周囲の人は、得意なことは一生懸命にほめてやらせてあげること、反対に苦手なことは無理強いしないということが原則です。苦手な科目を無理にやらせると、勉強や学校自体がきらいになって、不登校になってしまうということもありえます。
母:得意なことを伸ばしてあげる姿勢が大切なんですね。では、就職についてはいかがでしょうか?
榊原洋一さん:自閉症スペクトラムの中高生が将来の職業を考える時には、特性に適した職業を選ぶということが大切です。たとえば、接客業のように人に対面して、相手の気持ちをみて判断しなければいけないような職業は向いていません。営業職なども同じですね。 逆に人に会う機会の少ない、経理などコンピューターで管理することが多い職種のほうがより向いていると言えます。理系の科目も得意ですから、医師免許をとれるくらい勉強ができるお子さんもいます。私が医局長をやっていたときの後輩にもアスペルガー症候群と思われる人がいました。勉強はできますが、どこへ行っても対人関係がうまくいかないんです。患者さんと意思疎通がとれない、看護師さんともうまくやっていけない。そこで、「臨床よりも基礎が向いているよ。DNAの研究をしなさい」とすすめるわけです。 あるいは、私が診てきたアスペルガー症候群のお子さんで、高校を卒業して仕事を探したんですが、社会性の認知が非常に低いタイプで、やはり人間関係をうまく築けなかったんですね。最終的に大きな大学の施設課、つまり設備や備品の管理をする仕事に就いてうまくやっているそうです。このように、人になるべく会わずに、モノやコンピューターを扱う仕事がより向いていると思います。
教室長:どんな人にも適職があると思いますが、自閉症スペクトラムのお子さんの場合は、障害の特性も考えてサポートしてあげられるといいですね。
榊原洋一さん:日本では自閉症スペクトラムの人たちのサポート体制に、まだまだ遅れている部分が多いと思いますが、障害のあるお子さんの保護者にも、そうでない人にも、より理解が広まってほしいですね。社会全体として理解が深まってくことで、サポート体制の充実につながっていくと期待します。
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【参照】
(※1) 出生数・出生率の推移 – 少子化対策 – 内閣府
(※2)『CHILD RESEARCH NET』
【参考文献】
『最新図解 自閉症スペクトラムの子どもたちをサポートする本』 (榊原洋一著、ナツメ社刊)
【プロフィール】
榊原洋一(さかきはら・よういち)
1951年東京都生まれ。東京大学医学部卒業、小児科医。東京大学医学部講師、東京大学医学部附属病院小児科医長、お茶の水女子大学理事・副理事を経て、現在、お茶の水女子大学名誉教授。専門は発達神経学、神経生化学。特に注意欠陥多動性障害、アスペルガー症候群などの発達障害の子どもの臨床研究を通して支援を続けている。 著書に『アスペルガー症候群と学習障害』(講談社)、『発達障害のある子のサポートブック』(学研プラス)、『図解よくわかるADHD』、『図解よくわかる発達障害の子どもたち』、『最新図解発達障害の子どもたちをサポートする本』(すべてナツメ社)など。