中高生のうちは、文章を書く機会は、作文や小論文くらいしか思い浮かばないかもしれません。しかし、大学で論文を書いたり、社会人になって企画書や提案書を書いたりと、大人になってからも文章を書くことを求められる機会は意外に多いものです。これらの機会に困らないように、中高生のうちに一生役立つ文章力を身につけておきたいものですね。
そこで今回は、日本語教育の研究者で、文章の書き方に関する書籍も多く執筆されている国立国語研究所の石黒圭さんに、文章力を伸ばすコツを伺いました。
目次
一生役立つ「文章力」を、子供は発達段階に応じて身につけていく
――新大学入試では、一部で記述式の問題が導入される予定です。また学習指導要領の改訂では、表現力を育てるために「書くこと」を指導する時間の配分が増える傾向にあると言われています。
こうした動きの中で、中高生の間でも「文章力を伸ばすにはどうしたらいいか」を知りたい生徒さんも多いと考えられます。
そこで今回は、これからの学校教育で求められる「文章力」について、お話を伺いたいと思います。
難しい質問ですね。では、逆にお聞きしますが、中高生に求められる文章力とはどんなものだと思いますか?
――大学入試を見据えて、国語のテストでの答案や小論文の書き方などがまず思い浮かびます。また、
新しい学習指導要領で前面に押し出されているアクティブ・ラーニングを取り入れた授業でも、プレゼンテーションやスピーチの原稿の作成、レポート作成など、書く機会が増えそうです。
確かに、多くの人が同じように答えると思います。ここで意識してもらいたいのは、文章力は小学校から大学生や社会人にいたるまでの過程の中で、階段のように一歩一歩上がっていく能力であるということです。中高生は、その文章力を上げていく途中の段階にあります。
――つまり、「文章力を伸ばす」ことを考えるのであれば、高校・大学受験などの大事な場面だけ乗り切れる文章力があればいい、という考え方は通用しない。そのように考えても、よいのでしょうか?
はい。一生役に立つ能力として、文章力を身につけてほしいですね。文章力は、年齢に応じた発達段階によってステップアップしていくものです。
ですから、「どの発達段階でどこまで学ぶか」を考えることが大切になります。
小学生から高校生までで求められる「文章力」とは
――たしかに、単に「文章力」と言っても、小学生、中学生、高校生、大学生で求められるレベルはそれぞれ違いますね。「どの発達段階で、どこまで学ぶか」。
このあたりについて、もう少し具体的に教えていただきたいです。まず小学校では、どんな文章を書けるようになればよいのでしょうか。
はい。小学生で学んでほしい文章力は、自分が目で見て体験したことを記録したり、想像力を働かせて自分の頭の中で考えた物語を作り上げたりする力です。
まず、小学生の低学年では、日常的な出来事を紹介する力を身につけます。
たとえば、夏休みのある一日の出来事を「○月○日に花火大会がありました。/駅前の公園から花火を見ました。/それから、近所のファミレスでご飯を食べました。/楽しかったです」という感じで、複数の場面を、接続詞を使って切り替えたり、感想を加えたりして書くことが可能です。
小学校も高学年になると、自分が体験していないテーマを想像して書くことも求められるようになるでしょう。
たとえば「花火がきれいだった」という思い出から、広島、長崎など、厳しい戦禍に見舞われたはるか昔の時代まで思いを馳せることができるようになります。
自分から少し離れたテーマも文章で書けるようになる段階を経て、中学校に進学します。
――身近な出来事から、だんだん自分とは離れた世界のことも書けるようになるんですね。では、中学生、高校生ではどのような発達の段階があるのでしょうか。
個人差がありますが、中学生では見聞きしたことを紹介する紹介文・物語文から、自分の頭で考えたことを説明する説明文へと移ります。
いわば、登場人物のいる、目に見える世界から、登場人物のいない、言葉の世界になるわけです。
さらに、高校生になると、自分の考えをわかりやすく整理して読者に示す、大学の論文につながる論説文の基礎も学びます。
さらにその中で、「これは自分の主張である」「これは他の人の意見の引用である」と区別して書くことも意識する必要が出てきます。
――なるほど。文章を書けるようになるためには、階段をのぼるようにステップアップしていく必要があるんですね!
「文章を書くのがニガテ」というお子さんは、発達段階のどこでつまずいているのか見直してみると、ニガテ解消のヒントになるかもしれません。
大学や社会に出てからも役に立つ文章力とは
――ここまで、小学校から高校までに「書くこと」を学ぶ段階について伺ってきました。その次の段階では大学生や社会人になると思いますが、そこで求められる文章力についても教えていただきたいです。
結論から言うと、大学で必要になるのが「アカデミック・ジャパニーズ」、社会人で必要になるのが「ビジネス・ジャパニーズ」です。
――「アカデミック・ジャパニーズ」と「ビジネス・ジャパニーズ」について、どちらも詳しく知りたいです。まず、アカデミック・ジャパニーズについて教えてください。
大学とは、基本的に論文の書き方を学ぶ場です。そして学術的な文章には、論理的で正確であることが求められます。つまりアカデミック・ジャパニーズは、論文を書くための、論理的で正確な日本語です。
最近ではインターネット上でさまざまな人の発言を閲覧できますが、自分の先入観や、偏ったものの見方や考え方からしか意見を言えない人が多く見受けられます。
アカデミックな文章では、自分の固定観念を超えて、自分が調べた資料やデータを根拠として、一定のルールに基づいて、自分の頭で考えて実証的に書くことが求められます。
私は、大学とは、このように根拠に基づいて実証的に語ることを徹底的にトレーニングする場だと考えています。それを形にしたものが、日本語で書かれた論文・レポートです。
――では、ビジネス・ジャパニーズとはどういうものですか?
ビジネス・ジャパニーズでは、論理的で正確なことも大事ですが、それ以上にわかりやすく、スピード感を持って読めることが重要です。
ビジネスシーンでは、具体的な読み手を想定して読み手がどれくらいの知識や理解力を持っているかを想像し、その読み手に対してどれだけポイントをおさえて伝えられるかが重視されます。
たとえば、社内での引継ぎや取引先との連絡といったビジネスでのコミュニケーションは、簡潔でわかりやすくまとまっている方が喜ばれます。
そしてイラストや図を使った企画書や、ポスター、車内吊り広告なども、見た相手にすぐに伝わった方が、企画書が通りやすくなったり、お客さんに興味を持ってもらえたりと、成果に結びつきやすいですよね。
つまり、このわかりやすくポイントを伝えられる力は、社会人ならどんな職種であっても求められる能力なのです。
――「一生役に立つ文章力」を身につけるとは、このアカデミック・ジャパニーズとビジネス・ジャパニーズを使いこなせることとも言えそうですね。
そうですね。受験に必要になることがあるので、小論文の書き方を学びたいという高校生も多いと思いますが、大学に入ることだけを目標にしていると意味がありません。
小論文で問われるのはその場の発想力と表現力であり、時間をかけて丹念に論理を積み重ねる論文のほんの入り口に過ぎません。
そこで、大学に入って何をしたいのか、さらには社会に出て何をしたいのかを考え、そのための文章力を身につけることが大切です。
中学校や高校で学んでいることは、将来必要になるアカデミック・ジャパニーズとビジネス・ジャパニーズという2つにつながっています。
これらを意識しながら文章を書くトレーニングをすれば、得るものは非常に大きいと思います。
小論文を書くポイントは、出題者の立場になってテーマをとらえてみること
――今お話が出ましたが、小論文についてもう少し詳しく伺いたいです。小論文の対策をしようと考えた時、気をつけるべきポイントはどんなことでしょうか?
まず、小論文で何を問われているのかを考えてみましょう。小論文で問われるのは、基本的な発想力と表現力です。
大学とは研究者養成機関でもありますから、自分の頭で考え、説得力のある意見を適切な言葉で述べるという大学の学び方に適しているかが問われます。
一方、大学は学部によっては、保育、看護、医療、福祉といった専門職養成機関でもあります。こうした学部では、特定の職業に対する適性をはかるために小論文を課しています。
つまり、アカデミックな考え方や書き方を見る目的と、職業的な適性を見る目的という、大きく分けて2つの目的があるということです。
――まず、小論文が課される目的を考えることが大切なんですね。では、実際に小論文を書く時のコツのようなものはありますか?
気をつけるべきコツは1つだけ、「出題者の立場に立って考えること」です。
小論文のテーマの予測というのはなかなか難しいものですが、過去問を見ていくとある程度、傾向がわかってきます。
出題者の立場に立って、「自分なら次はどんな問題を出すかな」と考えて自分なりに分析してみましょう。
あるいは、同じ系統の学部を志望している同級生がいれば、書いた文章を見せ合って、「大学の先生なら、この文章をどう読むだろうか」ということを話し合ってみると、採点者の立場に立って考える機会になります。
このように他者の視線を意識することは、小論文だけではなく、文章全般を書く時にとても役立つことです。
――なるほど。小論文が課される意図を考えることが大切なんですね。大学が求める人物像や、大学に入ったあとのこと、さらに社会に出た時のことまで考えてみると、小論文のテーマについてより深く理解することができそうです。
入学者の選抜は、高校から大学、大学から社会というように、卒業後の進路を見据えて行われます。
卒業後、その次のステージで何をやりたいのかを問うために小論文が課されていることが理解できれば、出題者の意図するポイントが見えやすくなるはずです。
中高生が「書く力」を鍛えるためにできる2つのポイント
――ここまでお話をうかがってきて、文章を書くことを学ぶ背景にあるものが見えてきたように思います。次に、実際に中高生が文章力を鍛えるためにできることを教えていただけませんか?
文章力は、とにかく書かなければ鍛えられません。文章を書くというのは大人でも面倒な作業なのですから、中高生にとってはなおさらです。
そのため、中高生に文章の書き方を教える場合は、「書いてみたい」「書かなければならない」という動機づけが重要です。
まず「書いてみたい」という状況を作るためには、「書きたくなるテーマを見つける」「読んでほしい相手を見つける」という2つのポイントを押さえる必要があります。
――「書きたいテーマ」はどのように見つければよいのでしょうか?
文章のテーマは、まず「私」に関わる身近な対象に設定するのがよいと考えます。なぜなら、自分に興味のない人間はいないからです。いかに「私」に身近なテーマを設定するかが重要ですね。
たとえば、ハンドボールのようなマイナーな競技(私は高校時代ハンドボール部でした)に取り組んでいる生徒さんが、その競技をみんなに知ってほしいと思って書いた文章は、いきいきとした文章になるはずです。
アカデミックな文章では「私は~」とは書きませんから、最終的には「無私」のレベルに到達するのが目標になりますが、文章力を鍛えるきっかけとして、最初は「私」から始めて、徐々に「私」から離れる抽象的なテーマに取り組むのがよいと思います。
――自分に関することであれば、お子さんも取り組みやすそうですね。もう一つのポイントは「読んでほしい相手を見つける」とのことでしたが、この場合どのような相手が最適でしょうか?
学校の先生を「読んでほしい相手」とするのは、あまりオススメしません。お子さんが書いた文章を「先生が点数をつけるために読む」という場合が、最悪のパターンですね。
これでは自ら書きたいとは思えないでしょうし、活きた文章になりません。
そういう意味では、メールやLINEなどを送る相手は、「読んでほしい相手」としては適任です。中高生ですと、クラスメイトや部活・塾などの仲間、先輩や後輩などが身近な相手になるでしょうか。
明確な読み手がいると、どう表現したら伝わりやすいかがイメージしやすくなるからです。そうした身近な読み手への伝え方の工夫を積み重ねることで、日常的なやりとりでも文章力は鍛えられていきます。
このようなメールやSNSをやりとりする相手と、書いた文章を読み合って指摘し合えれば、もっと文章力は鍛えられます。
そして、書きたいテーマと同様に、「私」と身近な読み手から始めて、だんだん「私」から離れていき、読み手を増やしていくことを意識してみてください。
――なるほど、親しい友達などと協力して文章を読み合うのも、文章力が鍛えられるのですね。ちなみに中高生には受験などで「書かなければいけない」という状況も多くなると思いますが、それも文章を書くための大きなきっかけにはなりませんか?
そうですね。もちろん、「小論文で必要だから」「エントリーシートを書かなければいけないから」ということも、ある種の動機づけにはなると思います。
ただ「小論文で問われる能力とは、大学や社会で求められる能力のほんの一部でしかない」ことは意識する必要があります。
先ほど言ったように、大学に入ることだけを目標にしているのでは、文章が縮こまってしまいます。大学に入って何をするのか、社会に出て何をしたいのかまでを考えて、段階的に文章力養成に取り組むことが重要です。
―――表現力を豊かにするためには語彙力が重要で、語彙力を増やすためには本をたくさん読んだほうがよい、などと言われることがあります。語彙力と読書量は比例すると思われますか?
結論から言いますと、語彙力と読書量は、必ずしも比例するとは限りません。まず表現力を磨きたい場合、理解語彙と使用語彙の違いを知ることが大切です。
理解語彙とは、文章を読んでいて、辞書をひかなくても意味がわかる語彙です。意味がわかれば使える必要はありません。
一方、使用語彙とは、自分の頭の中から取り出して、頭の中に浮かんだ考えを適切に表現できる語彙です。
この2つは基本的に違うものですから、文章を書くために使える語彙を増やそうとするならやはり書く練習が必要です。
つまり、文章をたくさん読む人が書けるようになるかというと、半分正解で半分不正解だと言えます。
――読書さえしていれば、語彙力や表現力が伸びると思っていました……。使用語彙を増やすためにできることは、どんなことですか?
使用語彙を増やして表現力を高めるには、ジャンルを意識することが大事です。たとえば、将来、スポーツ誌のライターになりたいという人が、読書が趣味で推理小説をよく読みますという場合、ジャンルが違うので、使用語彙が増えるとは思えません。
つまり、使用語彙を増やしたいなら、自分が書きたいジャンルのものを読まなければいけないということです。
もう一つのポイントは、自分が書くことを前提として文章を読むことです。
たとえば私は文章を書くことが主な仕事の一つですから、世の中の文章を読む時は、電車の車内吊り広告、新聞、インターネットの記事など、どんな文章でも「書く材料としてどう使おうか」と常に考えながら読みます。
このように書くことを頭の中で常にシミュレーションしながら読むことができると、理解するための語彙が使える語彙に少しずつ変わっていきます。
また、読書量が多い人でもふだん文章を書く習慣がないと、文章で表現するための語彙が少ないということもあります。
ですから、表現力を磨いて文章力を高めたいという時には、積極的に書く場を持つことが必要です。
――中高生が「書く」機会を増やすためには、どんな場が適しているのでしょうか。
とくに中高生は書く場が不足しているので、自分なりの発信する場を作ってほしいと思います。そういう意味では、FacebookやInstagram、TwitterなどSNSで発信することもよい機会になると思います。
自分の書いたものが多くの人の目に触れ、「自分の言いたかったことが正しく理解してもらえなかった」という経験を積むことで、「じゃあ伝え方を変えてみよう」「こう表現した方がわかりやすいかな?」と、読み手に伝わりやすい文章を意識して書く練習ができます。また「いいね」やコメントなどのフィードバックがあることで、書き続けるモチベーションが上がるきっかけになるでしょう。
――たしかに、SNSは文章を使ったコミュニケーションの場と言えますね。常識的な限度を超えて依存してしまうのは問題ですが、うまく付き合っていくことができれば、文章
力の基礎を養う場になりえると思いました。
書いた文章は1人で推敲せず、より多くの人に読んでもらうことが大切
――文章をよりよくするためには、読み返して練り直す推敲が欠かせません。推敲する時のポイントがあれば教えてください。
文章を書く時にいちばんよくないのは、ひとりよがりの文章になってしまうことです。
たとえば、私が担当している大学院のゼミでも、さまざまな人の前で研究発表をして、指摘を受け書き直すということをします。
自分が書こうとしている文章のどこに問題があるのか、どこを直せばよくなるのかというポイントをつかむためには、他人に読んでもらうことが大切なんですね。
自分1人で推敲するよりも、他の人に読んでもらって話し合うことで、自分の書いた文章がどこまで理解してもらえるのかをリアルに確認できます。
こうしたグループワークをくり返していけば、他者の目を内面化することができ、また「書きたい」というモチベーションを上げることができます。
――文章をよりよくしようとする時には、いろいろな人に読んでもらい、意見を聞くことも大切なんですね。グループワークと聞くとアクティブ・ラーニングが思いつきますが、アクティブ・ラーニングも文章力を伸ばすうえではよい機会となるのでしょうか?
そうですね。私は、他者の目を内面化するということが、アクティブ・ラーニングの最大の意義だと考えています。
教室の中で、先生というプロからの視線やクラスメイトの視線へと、読み手を広げていくことで自分の文章を相対化し、他者の視線を内面化する。
生徒同士がお互いに評価し合い、指摘し合う中で、教室を切磋琢磨し合える場にできるかどうか。そこが重要ですね。
――他者の視線を内面化するために、保護者の方の視線も役立つかもしれません。保護者の方がお子さんの書いた文章について指摘したい場合、どのように声をかければよいでしょうか。
保護者の視線からの意見は、大人の目から見てどう読めるのかがわかりますから、文章をよりよくするために有意義ですね。
多感な年ごろの子どもが傷つかずに、かつ書く意欲がわくフィードバックと考えると、文章に対しては「共感」と「批判」の2つの視線を持つということが、一つの考え方になると思います。
まず「この表現がいいね」「おもしろいと思う」と共感する姿勢で、よいと思ったところは素直にほめましょう。
一方でよくないところも指摘しなければいけませんが、その時には、改善につながるように「ここは間違って読まれてしまうと思う」「このままだと理解しにくいよ」ときちんと根拠を示してあげることです。
――根拠がはっきりわかるとお子さんも納得してくれそうですね。中には、保護者の方の話は「なかなか親の言うことを素直に聞いてくれない」と悩む方もいらっしゃると思いますが、そんな時はどう対応すればよいでしょうか。
そんな時は、「学校の先生は何て言ってた?」「友達には見せた?」「塾の先生は?」というふうに、できるだけ他の人を巻き込むことです。
――なるほど。読み手を広げるという意味でも使えそうな方法ですね。中高生が文章力を鍛えるためにできることと聞くと、1人でもくもくと読んだり書いたりする場面をイメージしていましたが、ここまでのお話を聞いて、より多くの人の目に触れる形のほうが学ぶことが多いんだと感じました。最後に、文章を書くことを苦手に感じている中高生のために、アドバイスをいただけないでしょうか。
文章を書くとき、うまく書こうと思わなくていいんです。まずは自分の書きたいこと、考えていることを書いてみてください。
慣れてきたら、一歩進んで、読み手が読みたいと思うことを書いてみましょう。「書くこと」はコミュニケーションの一つです。
自分が書きたいと思っていることと、読み手が読みたいと思っていることは常にせめぎ合いであり、放っておくと、どうしても読み手の読みたいことよりも、書き手が書きたいことが勝ってしまいます。
ですから、文章力を鍛えるには、読み手の読みたいことに合わせて、書き手の書きたいことを設計することが大事です。
「小論文が受験で必要だから」と義務として文章を書いても、いきいきとしたものになりません。
中高生のみなさんには、まず自分が何を書きたいことを大切にして、そして読み手である出題者を面白がらせるつもりで、「文章を書くこと」を学んでいってほしいと思います。
【プロフィール】
石黒 圭(いしぐろ けい)
1969年大阪府生まれ、神奈川県出身。一橋大学社会学部卒業、早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。一橋大学国際教育センター教授を経て、現在は国立国語研究所教授(日本語教育研究領域代表)、一橋大学大学院連携教授。専門は日本語学(文章論・談話分析)、日本語教育学(読解研究・作文研究)。著書に『文章は接続詞で決まる』『「読む」技術』『日本語は「空気」が決める』『語彙力を鍛える』(以上、光文社新書)、『「予測」で読解に強くなる!』(ちくまプリマー新書)、『この1 冊できちんと書ける! 論文・レポートの基本』(日本実業出版社)、『正確に伝わる!わかりやすい文書の書き方』(日本経済新聞出版社)など多数。