学校の授業や部活、塾、友達との約束など、常に時間に追われている中高生は多いのではないでしょうか。
「家で勉強する時間が足りない」と感じているなら、やりたいことややるべきことを整理して、時間の使い方を見直し、スケジュールを立ててみましょう。
「やりたいこと」や「なりたい自分」を実現するために必要な時間が、作れるようになります。
今回は、時間を有効に使うスキル”タイムマネジメント(時間管理)”に詳しい、コーチング講師の滝井いづみさんにお話を伺いました。
※コーチングとは、質問を投げかけることで相手の思いを引き出す会話を中心に、目標達成や自己実現をサポートする人材育成の手法の一つ。
目次
時間管理を意識すれば、できることが格段に増えていく!
――滝井さんはタイムマネジメントを専門にコーチングをされていると聞きました。タイムマネジメントとはどういったことを指すのでしょうか?
タイムマネジメントは「時間管理」とも訳され、限りある時間を有効に使うためのスキルを指します。時間を管理するとは、行動を管理すること、つまりセルフコントロールだと私は考えています。
時間とは自分の「資産」や「資源」です。その時間の使い方が上手くなると、できることが格段に増え成長につながっていきます。
――滝井さん自身もお子さんがいらっしゃると伺いましたが、中高生でも「時間がない」という悩みは多いと感じますか?
そうですね。受験を控えた中高生はもちろん、受験期でなくても学校や塾、部活、友達との約束など、いまの中高生は忙しく時間が足りないという悩みが多いですね。
「決まった時間までにやるべきことを終わらせる」のは大人になっても大切なことですし、小さいころからタイムマネジメントを意識するのは有意義だと感じます。
――時間の使い方が上手いお子さんと、そうではないお子さんにはどんな違いがあると思われますか?
時間の使い方が上手ですと、様々な違いが出てきます。たとえば、成績もその一つです。
勉強時間を上手く作れずに徹夜でテスト勉強をしても、それは付け焼刃の学力になってしまいますし、寝不足ではよいパフォーマンスが発揮できません。
ですが、上手く時間を使って勉強できれば、勉強の効率が上がり、万全の状態でテストにものぞめますよね。
――勉強する時間を上手く作れるようになれば、成績につながるということは想像しやすいですね。
勉強だけではありません。部活でも、友達や家族と過ごす時間でも、ただ何となく過ごしているよりも、時間を上手く使うことを意識できれば、その内容がより濃いものとなり、よりよく変わってきます。
時間管理の第一歩は、自分を客観視して「このままではいけない」と気づくこと
――次に、時間管理の方法について伺いたいと思います。時間を上手く使うためには、まず何が必要でしょうか?
必要なものは「意識」と「俯瞰する目」です。
ひとつ目の「意識」というのは、お子さん自身の「このままじゃいけない」という気持ちですね。
人間というのは感情があると行動に起こしやすくなりますから、自分で「このままじゃいけない」「やばい」と感じられれば、行動に結びつきやすくなります。
――なるほど、危機感を持つことが大切なんですね。2つ目の「俯瞰する目」とはどういうことでしょうか?
「俯瞰する目」というのは、「一歩離れて自分を見てみる」つまり「自分を客観視する」ことです。
最近、印象的だったのは、大学在学中からイタリアのプロリーグで活躍しているバレーボール選手の石川祐希さんです。
彼は大学を卒業して日本で選手として活動する道もあったはずですし、そのほうが楽でしょう。でも、海外で一人暮らしをしながらでも、イタリアのプロリーグに行くことを選んだ。
それは、自分の人生を俯瞰して見て、自分のバレーボール選手としてのキャリアのためには、海外に行くことが必要だと判断したからですよね。
――自分が成長するためには何が必要か、客観的に見つめることが大切なんですね。
はい。メタ認知とも言いますが、少し離れて自分を見ることができると、時間を上手く使うことにつながっていきます。
――中高生くらいのお子さんは目の前のことに夢中で、自分を客観視して、「このままじゃいけない」と気づきにくいことも多いと思います。
上手く気づかせてあげるために、保護者の方はどんなふうに声をかけるとよいでしょうか。
我が家にも中学生と高校生の子どもがいますが、難しい年ごろですよね。保護者の方から「こうしなさい」と言われると、やはり抵抗があります。
ですから我が家では、直接すすめるのではなく、ふだんの家庭の会話の中で、「今の受験生ってこういう勉強をしているみたいだよ」「この間、受験の合格体験記を読んだんだけど」とニュースとして話すようにしています。
そんなふうに直接言われなくても、誰かが活躍している、がんばっているという話が耳に入れば、お子さんも必要なものに気づく瞬間があるのではないでしょうか。
時間を上手く使うためのスケジュールの立て方のコツ
――時間を上手く管理するためには、やはりスケジュール帳などを用意するべきでしょうか。
はい。頭の中だけで考えても上手くいかないので、カレンダーや手帳などに書き込んでスケジュールを立ててみましょう。
――スケジュール帳を持っている人は多いと思いますが、使いこなしている自信のある人は少ないかもしれません……スケジュールを立てる時のコツはありますか?
スケジュールを立てる時は、「①やるべきことを書き出す」「②使える時間を書き出す」「③いつ何をやるか決める」の3つのステップで考えてみてください。
タイムマネジメントでは、目的や目標からやるべきことを逆算して、スケジュールを立てるのは重要な考え方です。
まずは「①やるべきことを書き出す」手順ですが、中高生の勉強では、「定期テストのニガテ科目で〇点アップ」「〇月の英検で2級合格」といった目標を立て、そのために取り組むべき学習内容をリスト化してノートなどに書き出します。
ここに、毎日の学校の授業のための予習・復習や宿題なども加えて、To Doリストを作りましょう。
ここで大切なのは、リストアップした内容に優先順位をつけることです。中高生はとくに好きなこと、やりたいことからやってしまい時間が足りなくなってしまいがち。
ですから、リストを客観的に見て重要度の高いもの、期限の近いものから1、2、3…とナンバリングして整理しておきましょう。
――なるほど、まずはやるべきことを書き出せば、優先順位もつけやすくなりそうですね。「②使える時間を書き出す」では、どういうことをすればいいのでしょうか。
②のステップでは、ノートなどに1日の時間軸を書いていきます。
通学や学校にいる時間を中心に、起床・就寝、食事、入浴など生活にかかる時間を書きこむことで、自分が自由に使える時間が見えてきますね。
そうすると「勉強に使える時間は意外と少ないな」とか「スマートフォンを何時間も見ていると時間が足りなくなる」と気づき、時間を有効に使おうという意識が出てきやすくなります。
――「③いつ何をやるか決める」のステップでは、手帳が活躍しそうですね。
はい。①のステップで書き出した内容を優先順位の高いものから、時間配分を考えながら手帳などのカレンダーに落とし込んでいきます。
このとき、手帳の目につくところに「○月の英検で2級合格」、「次の期末テストの物理で10点アップ」など、目標を書いておくのがおすすめです。
予定を確認するたびに、目標も目に入るのでモチベーションの維持に役立ちますよ。
――スケジュールを立てても時間が足りないと感じるときには、どうすればよいですか?
時間が足りないときは、何かをあきらめる必要があります。
基本的な考え方として、「時間は有限」という原則を意識してほしいですね。たとえば、バケツの容量には限りがあって水を入れすぎればあふれてしまいます。
同じように、限られた時間の中で、やりたいこと、やるべきことをすべてやろうとすると、当然あふれてしまいます。
容量内におさめるには、ぎゅっと圧縮して集中してやるか、あるいは入らない分を減らすしかありません。
中高生であれば、「自分の時間を奪っているものは何なんだろう」と考えてみて、やりたいことの中から「やらないこと」を決めてみるとよいでしょう。
「20時以降は絶対にスマートフォンを触らない」など、小さなルールを自分で決めるだけでも、使える時間がぐっと増えると思いますよ。
――「やらないことを決める」のも、上手く時間を使うコツなんですね。そのほかに時間を有効に使うコツはありますか?
朝のほうが集中できる人は、起きる時間を少し早くして予習にあてたり、すきま時間にもできる勉強は通学の時間に取り組むようにしたりと、工夫してみるとよいでしょう。
仕組みを作って毎日の習慣にできれば、時間になればすぐ行動に移せますし、毎日コツコツ続ける自信もつけることができるでしょう。
――スケジュールを立てたけれど、どうしても予定より遅れてしまうこともあると思います。そんな時は、どうやって時間を取り戻せばよいのでしょうか?
予定通りにいかない時は、そもそも予定を詰め込みすぎていることが理由として考えられます。
ですから、最初から余裕を持って予定を立てることと、予定を見直すゆとりをとっておくことが大切です。
人間って、3時間かかるタスクを「1時間でできる」と思いこんでしまう生きものなので、予定の詰め込みには注意したいですね。
また実際に時間を測りながら勉強してみるのもおすすめです。30分で終わるボリュームだと思っていたものが、実際には1時間かかってしまうこともよくあります。
実際にかかる時間を把握し、次の予定に反映していきましょう。時間を測ることでプレッシャーがかかって、集中して勉強できる効果もありますよ。
――予定が上手くいかなった時は、どうしたら良いでしょうか?
次はどうしたら上手くいくかを考えて、スケジュールを調整し直してみましょう。
最初に考えていたよりも時間がかかってしまったり、突発的なことで予定がずれてしまったりすることは、当然あります。大切なのは、予定通りにできなかった時にどう対処するかです。
保護者の方は「次はどうしたらいいかな?」「もう一度、考えてみればきっと上手くいくよ」とお声がけして、お子さんが自分で考えて挑戦したくなるように促してみてください。
時間管理のツールは手帳でもアプリでもOK! 自分に合ったものを探そう
――予定を書き込むためには、手帳を使っている人が多いと思います。時間管理の観点から、手帳の良さを教えていただけますか?
手帳の良さは、1か月、3か月、半年と先の予定がひと目でわかるところですね。目標も含めて、長期的な予定が一覧できると、長期的な視野を持つことができます。
――手帳のタイプはマンスリー、ウィークリー、1日1枚などさまざまなタイプが販売されています。具体的にはどういったタイプの手帳がおすすめでしょうか?
手帳を選ぶ時は必ず、マンスリー、ウィークリーというカレンダーのページがあるものを選びましょう。
中でも一番のおすすめは、1日の欄が縦軸で1時間あるいは30分おきに区切られているバーチカルタイプの手帳です。
たとえば「9時‐15時/学校」「16時‐18時/部活」「19時/夕食」「22時/就寝」というふうに書き込んでおくと、自分が使える時間がどのくらいあるのかが、手帳を開くとひと目でわかるのがよいところです。
――なるほど。確かに手帳があれば、自分が使える時間を「見える化」できますね。手帳のサイズは、どのくらいの大きさのものを使うのがおすすめですか?
勉強のスケジュールを立てると言っても、「問題集の〇ページから〇ページまで」と詳細にリストを作るタイプから、「英語〇分、国語〇分、宿題〇分」とざっくりと決めるタイプまでさまざまです。
人によって違いがありますから、手帳のサイズやページ数は自分が書き込みたい内容に合ったものを選べるとよいと思います。
――最近では、スマートフォンで使える時間やスケジュールを管理するためのアプリも多くありますが、こうしたデジタルツールとカレンダーに書き込めるタイプの手帳ではどちらがおすすめですか?
デジタルとアナログ、どちらでも大丈夫です。重要なのは、自分が時間管理しやすいかどうかです。
スマートフォンのアプリの良さは、入力や訂正が簡単であることと、いつも身近にあって確認しやすいことですね。
一方でデメリットとしては、一覧がしづらいので長期的な視野が持ちにくいことが挙げられます。
またほかのアプリに目がいってしまって、誘惑が多いのもつらいところだと思います。
今のお子さんはスマートフォンがより身近なものになっていますから、誘惑を避けて上手く使えるのなら、どんどん活用されるといいですね。
予定を書き込むツールは一元化するのが理想的ですが、たとえば、目標や長期的な計画は手帳で管理して、スマートフォンでは短期的な1日の予定が通知される機能など、アプリならではの機能を活用するといった使い方をしてもよいでしょう。
一方で手書きの良さは、1週間や1ヵ月など長期間のスケジュールがすぐに確認できることですね。
アプリよりも、長期的視野が持ちやすくなります。欠点としては、手書きで書きこむ手間を感じたり、訂正がしづらかったりすることなどが挙げられます。
また、とくに女の子だとシールを貼ったりペンの色を変えたりと、凝りすぎてしまうこともあるので気をつけたいですね。
中高生の「時間管理」に関して、保護者がサポートできること
――家ではダラダラしてしまったり、逆に、睡眠時間を削ってまで勉強してしまったりなど、保護者の方からお子さんを見て、「もっと時間を上手く使ってほしい」と感じる場面も多いと思います。
お子さんの時間の使い方について、保護者の方ができるサポートにはどんなことがあるでしょうか?
我が家では、ふだんから「何か協力できることはある?」などと声がけすることを心掛けています。
その時はできることがなくても、声をかけていることで「お母さんはあなたの味方だよ」「いつでも協力するよ」ということさえ伝われば、家庭での会話も増えて、よいコミュニケーションがとれるようになると思います。
先ほど時間を上手く使うためには、やらないことを決めるとよいというお話をしましたが、中高生が自分でやらないことを決めるのは、結構ハードルが高いことだと思うんですよ。
そんな時は、「お母さん、今日、スマートフォンを1時間も見ちゃって、○○ができなかったんだ。時間がもったいなかったな」と、体験談として話してあげてもよいと思います。
また、保護者の方がスマートフォンやテレビから離れてみることも必要かなと思います。そんなふうに環境づくりでもサポートしてあげたいですね。
――お子さんが「もっと時間を上手く使えるようになりたい」とスケジュールを立て始めたとしてもなかなか続かなくて困ることもありそうです。時間管理を続けて、習慣づけるためのコツはありますか?
たしかに目標や予定を立てて時間を管理すると決めても、だんだん気が抜けてしまいがちですよね。
コツとしては、時間を上手く使うメリットを味わうように、意識してみましょう。
「今日は予定通りに時間を上手く使うことができて、いい一日だったな」と感じることができると、続けやすいと思います。
また、上手く時間を使っている人を見つけて、「やっぱりいいな。私もがんばろう」と人の様子に刺激を受けることも、続けるためのコツになります。
――スケジュールを立てても、予定通りに実行できるか心配だという人も多いと思いますが…。
時間管理やセルフコントロールを続けるのは誰にとっても難しいです。ですので、上手く続けられない時があっても当たり前と思ってください。
三日坊主になってもいいんです。三日坊主をくり返すつもりで取り組んでみましょう。
いつも完璧に続けなきゃと思うとつらいので、「今週はダメだったけど、来週はがんばろう」というくらいの気持ちで大丈夫ですよ。
時間が上手く使えて、予定通りに進めることができると、すごくすっきりして楽しいものです。
失敗をおそれずにぜひ取り組んでみてほしいと思います。保護者の方からお子さんにアドバイスする時も、「失敗しても大丈夫。もう一回やってみよう」と声をかけてあげられるとよいですね。
――なるほど。失敗しても大丈夫と思うと「やってみよう」とやる気になりますね。では最後に、時間の使い方に悩んでいる中高生とその保護者の方にメッセージをお願いします!
時間の使い方を変えると生活ががらっと変わります。そして、時間を上手く使えるようになると、「なりたい自分」を実現しやすくなります。
中高生は可能性のかたまりです。お子さんたちが時間を上手く使うことで、お子さんたち自身の希望を実現する助けになります。
そしてその時間を上手に使う力は、社会に出てからも必ず役に立ってくれるはずです。
最後に、タイムマネジメントは、自分の「やりたいこと」や「なりたい自分」を実現するための手段でしかありません。
自分の「やりたいこと」「なりたい自分」という目的を明確に持ったうえで、時間管理を楽しんで実践してもらえれば嬉しいです。
[プロフィール]
滝井いづみ(たきい いづみ)
Office FONTANA代表
香川県出身東京都在住。青山学院大学卒業。大手旅行代理店に8年勤務し、1人暮らしをしながら会社員として働く中で100時間を超える残業時間を経験し、段取りやライフバランスの重要性を痛感。
退職後には育児のかたわら、2006年国際コーチ連盟認定コーチ養成プログラムであるCTP(Coach Training Program)にてコーチングを学び、パーソナル・コーチ、研修講師、セミナー講師として活動。
コーチング研修、タイムマネジメント研修、コミュニケーション研修、中堅リーダー研修、新人研修などに携わる。
最近では「働く女性向け時間について考える」「こどもの時間の使い方」といったテーマにも取り組み、活動の幅を広げている。
著書に『「時間がない!」から抜け出すちょっとした方法』(大和出版)、『また話したいと思ってもらえる会話術』(ごきげん出版)など。
Personal coaching Office Fontana – パーソナルコーチング、タイムマネジメントで充実した時間を。 Office Fontana 滝井いづみ