中高生が学習をするうえで、「読解力」は国語だけに限らず必要になる力です。
では、「読解力」を伸ばしたいと思った時には、どんなことができるのでしょうか。
今回は名門として名高い麻布中学校・高校の国語教諭である中島克治さんに、読書と読解力の関係から、読解力を鍛えるコツなどを伺いました。
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目次
日本の中高生の読解力は低下している!? そもそも「読解力」とは?
――OECD(経済協力開発機構)が実施する国際的な学習到達度調査(PISA)の2018年度調査(※1)において、日本の子どもたちの「読解力」が低下している(※順位と平均得点が低下)と話題になっています。
これについてはどう受け止めればよいのでしょうか?
たしかにPISAのデータでは「読解力」で順位が下がっていますが、私からすれば心配しすぎることはありません。
OECDのテストで要求される「読解力」と、日本の教育現場において子どもたちが求められる「読解力」の間にはズレがあると、よく指摘されています。
OECDのテストで求められる力は、わかりやすいエビデンスを利用して主張したり、反論したりする力、つまり欧米型の実践的な交渉術に近い能力です。
一方で国語を中心とする学力につながるのは、たとえば文学作品を通して多くの語彙や言い回しに触れ、文化の背景を知り、言葉の奥にある奥ゆかしい心情を読みとるような力です。
――では、国語教諭という中島さんの立場から、日本の中高生に求められる「読解力」とは、どんな能力だと考えられますか?
私が中高生に大切にしてほしい「読解力」とは、「相手の言いたいことや気持ちを、相手よりも深く理解できる力」です。
この力があれば、将来ビジネスの場でも、お互いに相手の気持ちや考えを受け止めて、うまく交渉を進めることにもつながります。
自分の主張を持って相手を論破する力ももちろん必要なものですが、それより子どもたちには、相手を理解する姿勢や力を根本に持っていてほしいと思いますね。
――「相手を理解しようとする」という点について、もう少し詳しく教えてください。
文学作品の作者や、評論文や意見文の著者、あるいは会話の相手、そういう自分の目の前にある他者の言いたいことを何とかしてくみ取ろうとする力が、「読解力」だと言えます。
文章を読んでいたり、会話をしたりしていて、相手が何を言いたいのかよくわからない場面に出会うことがありますね。
そこで立ち止まって考えたり、わからないところを解明しようとしたりすること。
こうした力が相手を理解し、言いたいことをくみ取ろうとする「読解力」を身につけるために必要なのだと思います。
――文章を読むだけでなく会話も含めて、相手の考えや気持ちを汲み取ろうとする姿勢が大切なんですね。たしかに相手を理解しようという心構えがあれば、どんな文章を読んでも理解が深まりそうです。
「読解力」を鍛えるために取り組みたい読書のコツ
――PISAのアンケート結果から、読書習慣のある生徒のほうが読解力の平均点がよかった(※2)ということも指摘されていますが、読書は読解力の向上に役立ちますか?
読書自体はよいことですね。読書の習慣をつけるためには、まず「読みたい」という気持ちがないと続きませんから、最初はライトノベルでも雑誌でもかまいません。
ただ、読んだ後に「ああ面白かった」だけで終わってしまうものは、中高生としては少し物足りないのではないでしょうか。
――読書と言えば、まず小説など文学作品が読みやすいと思いますが、おすすめのジャンルはありますか?
なんといっても「名作」と言われるような小説や評論をおすすめします。
それから、随筆(エッセイ)はもちろん、時には詩を読んでみるのもよいでしょう。
詩は文字数も比較的少なく、推敲を重ねた結果出てきた言葉が使われているので、読み解く練習になるんですよ。
小説については、太宰治、森鴎外、谷崎潤一郎、宮沢賢治など、いわゆる日本の文豪の「名作」と言われる作品がおすすめです。
評論やエッセイは、ちくまプリマ―新書や岩波ジュニア新書など、いわゆる「少年少女向け」の新書から選ぶとよいと思います。
――海外の作品についてはいかがですか?
できれば、日本人の作者のほうが翻訳されていないのでよいとは思いますが、興味をひかれるのであれば海外作品でもかまいません。
フランス文学なら、『レ・ミゼラブル』(ヴィクトル・ユーゴー作)、イギリスではシェイクスピアの戯曲などをはじめとして、名作と呼ばれる作品は地域を問わずたくさんあります。
ここでは近代の作品を挙げましたが、もちろん時代にはこだわりません。
映画『君の名は』が面白かったのであれば、例えば堀辰雄の同名の小説を読んでみてもいいでしょうし、村上春樹や宮部みゆき、東野圭吾や本屋大賞などの作品を読んでみることもおすすめします。
日本でも海外でも、社会の流れに負けずに残ってきた「名作」とは、きちんと読むことができれば、読解力だけにとどまらず人生によい影響を与えてくれるものですから、ぜひ読んでみてほしいですね。
――読解力を鍛えるために読書をしようというときには、どんな本を選べばよいですか?
いわゆる「ためにする読書」という発想はない方がよいです。本人が読みたいものが基本ですね。
また、単純に読書量を増やすためにという理由で、長いものを選ぶのではなく、ある程度内容がまとめられていてコンパクトなものから選ぶのもひとつの方法です。
たとえば最近では、評論集や思想文集、あるいは短編集であるとか、中には抜粋や要約を集めたものまで、各出版社からある分野のエッセンスだけをまとめた本が出版されています。
さまざまな分野のポイントをおさえた内容になっていて、ボリュームも抑えられているので、「忙しい」中高生でも目を通しやすいでしょう。
――中高生では、漫画やライトノベルが好きというお子さんも多いですね。
漫画の中には、人生を考えさせられるような名作もあります。
たとえば、萩尾望都や手塚治虫の漫画は、「私とは?」「人生とは?」という哲学的な問いがテーマの作品も多いので、作品に関する評論文などと合わせて、麻布中学校の授業で題材に使うこともあるんですよ。
一概に漫画だからダメ、ライトノベルだからダメとは言えませんので、読後に何かしら考えさせられるような内容のものを選べるとよいと思います。
――本を読むときの読み方についてコツのようなものがあれば、教えてください。
文章を読むときは、ただ文字を目で追うのではなくて、文章の向こう側にいる書いた人をイメージしながら読めるとなおよいと思います。
「この人はこういうふうに書いているけれど、本当にこう言いたいのかな」という感覚ですね。
私が思う「読解力が高い」人は、このように「一度、立ち止まって考える力」を持っている人であることが多いです。
お子さんが読書をするときに、物語の世界に入り込んで夢中で読み終わるという経験も貴重なことで、よい経験になります。
一方で、文章を読みながら立ち止まって考えることも、より深く考えることにつながる大切な習慣です。読書を通して、自ら考える力を鍛えることにもつながります。
小説の登場人物の台詞ひとつをとっても、「台詞ではこう書いてあるけれど、この人物が言いたいことは違うことなのではないか」と立ち止まって考える。
こうした読み方ができると、文章から読み取れる景色が違ってみえてくるはずです。
読書以外でも「読解力」を鍛えるためにできることとは?
――読書以外に「読解力」を鍛えるためにできることはありますか?
最初に意識してほしいのは「いろいろな体験をすること」ですね。いちばん取り組みやすいのは、さまざまな人や場と関わることです。
中高生の場合、学校の中だけでは、同級生や部活の仲間、学校の先生としか関わらず世界が狭くなりがちです。
学校以外にも勉強や習い事の場を確保するとか、ボランティア活動などで地域の大人と関わる場を持つといったリアルな体験を、たくさんしてほしいと思います。
――そうしたリアルな体験というのは、読解力とどうつながるのですか?
リアルな体験というのは、感受性を活性化させるんですね。
読書をしているときでも、ただ文字を目で追っているのではなく、「これおもしろいな」と感情が動いて頭が活性化しているほうが絶対に得るものが多いです。
本の中のバラエティに富んだ世界と、自分のリアルな経験との間に合致する部分を発見できると、読書がどんどん楽しくなりますし、現実の自分も世界を広げることができます。
本の世界の中だけでは、どうしても現実につながりません。読書だけに没頭するだけではなくて、いろいろなことを積極的に体験してほしいと思います。
――本の中の事柄と自分の実際の経験が合致することで、世界が広がる感覚はたしかに心当たりがあります。遠回りに思えても、読解力を高めるためにはリアルな体験も必要になるんですね。
中には、理系の内容に興味があって、講談社のブルーバックスなどの一般向けの自然科学系の新書を夢中で読む人もいます。
そういうタイプは、本を読むことで小さいころよく行った科学館の展示と、学校の物理で学んだ内容とが「あの展示は、物理のこの法則のことだったんだ」と、結びつく瞬間もあるでしょう。
私が中高生のころは、よく映画と原作を見比べていました。映画と原作を両方知ると「こう映像化するんだ」「もともとの話と全然違うんだ」と気づく場面がありますね。
この「気づき」も読解力を身につけるうえで、とても大切なものになります。
ふだんの生活の中でできる読解力のトレーニング
――「いろいろな体験をしよう」と意識する以外に、ふだんの生活の中で「読解力」を伸ばすために何をすればよいでしょうか?
ふだんから「他人に任せない」ことを意識してください。つまり、自分で判断し、自分で行動することです。
たとえば、食事が終わったら自分の食器は自分で下げる。脱いだ靴下を脱ぎっぱなしにしない。
今までは保護者の方がやってくれるのが習慣になっていたことを、自分の意思で変えてみてください。
習慣を変えるということは、自分を変えるということです。
こうした習慣や意識が身についていると、学校で意見を出し合うような場面でも、周りの意見に流されずに自分の意見を持つことができます。
そうすると世の中に出ても「みんなはこう言っているけれど、私はそうは思わない」「では、私はどうしたらよいのか」と立ち止まって考えることができる。
このように立ち止まって考えることができると、より深く考えることにつながり、思考力を鍛えることができます。
――生活の中でちょっとしたことを意識して、変えてみるのも有効なんですね。ほかに何かできることはありますか?
自分に残された時間を意識して生活をデザインすることです。
たとえば、今日は夜11時に寝る予定で、今は午後7時であるとします。
寝るまでにお風呂に入って、明日の予習や準備もしなければいけない。
では、どうスケジューリングすればよいか。
限られた時間の中では、効率を上げなければいけませんね。思考の量と質を上げる必要があります。
思考の量と質を上げるということは、物事を細分化して理解し、分析することですから、思考力のトレーニングになるんですね。
日常生活でも考えるクセがついていると、読書にもよい影響を与えられます。
――読書でもポイントを分けて理解し、よく考えながら読んだほうがよいのでしょうか?
そうですね。たとえば小説なら、「この登場人物はどんな人物だろう」「この場所はどこだろう」「時間帯はいつだろう」と、舞台のように空間化しながら読んでみましょう。
このように細分化して読んでいくと、たとえば『走れメロス』では、「セリヌンティウスはなぜ、すぐ人質になることを承諾したのだろう」とか、
「妹を無理やり結婚させてしまうのは、どうなんだろう」といった、物語の中の細かい部分に対する疑問が出てきます。
このように集中して読んでいると、細かく立ち止まって考えながら読むことができるので、考える力や読解力を鍛えることにつながります。
――日常生活の意識を変えてみると、考える力が鍛えられ、それが読解力につながっていくんですね。
要約や長文読解はどう勉強すればいい? 国語の成績アップのための勉強法
――国語の定期テストや大学受験の成績アップを目指すには、要約や長文読解などの問題を勉強する必要もあります。まず要約についてお伺いします。
文章を要約する力は読解力に含まれると思いますが、どのように勉強すればよいでしょうか。
そうですね。人が文章を読むときは、もともと要約しながら読んでいる部分があります。
たとえば、会話をしているときも映画を観ているときも同じで、「つまりこの人はこういうことを言おうとしているんだよね」と誰でも考える瞬間がありますね。
このように要約は自然にやっていることでもありますから、勉強するうえではもう少しだけ意識して練習すればよいとも言えます。
勉強するうえでのポイントは、ふだん文章を読んで自然に思いついている要約を、人に伝わりやすい文章になっているかどうかを意識して、書いてみるということです。
――新聞の社説を要約するのが練習によいとすすめられることも多いようですが、要約の練習に適した教材はありますか?
社説は題材がというよりも、ボリュームが適しているんですね。
小説1冊を要約するのはボリュームがありすぎて難しいので、やはり文章の長さが1,000字~2,000字程度のものが適していると思います。
ですから、教科書に載っている文章もちょうどよい長さですよ。教科書に対応したワークなどを利用しながら、要約の問題に取り組んでみるのがよいのではないでしょうか。
――では次に長文読解について教えてください。
長文読解の解き方のコツとして、設問を読んでから問題文の該当の箇所を読むなどと言われることがありますが、長文読解のテストを解く時のコツがあれば教えてください。
基本は問題文を一回で読み切ることです。難易度が高い問題ほど、部分を読んだだけでは答えられない、前後の関係を問うような問題が出題される傾向があります。
一読で解答できなければ、十分な読解力が身についているとは言えません。
部分を読めば、それぞれの設問に答えられるタイプの出題がされる場合もありますが、難易度が低いことが多いので、実力を鍛えることは難しいでしょう。
――センター試験に代わる大学入学共通テスト(以下、共通テスト)では、問題文が複数になるなど、文章量が増える見込みということですが、共通テスト対策ではどのようなことができるでしょうか。
共通テストのプレテストの傾向では、問題文に図表や会話文が多く使われ、契約書や企画書などのビジネス文書が扱われたことが特徴です。
それらを読み解く技能というのは、とくに国語的な能力というわけではありません。
図表やグラフを読み解くのは理科や社会の授業でも日常的にやっていることですし、契約文や企画書なども、いろいろな授業でプレゼンテーションの枠組みなどを勉強しているはず。
ですから、それらの勉強をがんばって、国語の問題を解くときに投影させればよいだけです。
国語の問題に関しても、授業を基本に高2や高3の読解の勉強をしっかりしていれば、共通テストで出題されるような文章は、量が増えたとしてもそれほど苦労せずに読めるはずです。
文章量が増えることを、必要以上に心配しなくてもよいだろうと感じます。
――国語のテストや試験では、問題文を読み解くだけでなく、出題者の意図も汲み取るべきでしょうか。
出題者の意図はぜひ利用するべきです。出題する側は設問によって必ず誘導するので、出題者の意図を汲み取ることが、試験問題においての正解にたどり着く近道であるとも言えます。
各大学の国語の入試問題にも、出題の仕方に傾向がありますから、過去問などでできるだけ傾向を把握しておけるとよいですね。
子どもの「読解力」を鍛えるために保護者ができること
――ここまでお話を聞いて、感受性や考える力を育てることが「読解力」を養うことにつながるということがわかりました。
ですが、「定期テスト対策・受験対策での国語のテクニック」や、「成績アップのための読解力トレーニング法」を知りたいという方も多いと思います。国語の勉強法について、教えていただけませんか?
そうですね。ここまでのお話は、即効力という話ではなかったかもしれませんね。
実は、国語の問題は授業で習っても、テストでは意外に正答できないんですよ。
私も授業で試したことがありました。試験直前に、試験問題とほぼ同じ読解問題をやってみたんです。そうしたら本番では意外に正答できる生徒が少なかった。
ですから、強いて勉強法と言うなら、授業に集中して取り組むことが基本です。
定期テスト対策では担当の先生が授業で教えた内容を復習しつつ、教科書の内容に沿ったワークに取り組むこと、
大学受験ではその大学の過去問などに取り組むというやり方を徹底してやれば、それで十分だと思います。
そのほかにプラスアルファで、読書をよくしたり、いろいろな体験に挑戦したりということが、人間としての成長にもつながる基本になるのではないでしょうか。
――最後に、中高生の「読解力」を鍛えるために、保護者の方ができることについてアドバイスをお願いします!
お子さんが読んだ本について話し合う機会を増やすとよいかもしれません。
私の授業の中でも、グループ分けして生徒同士が話し合う機会を作ることがあります。
グループごとにワークシートに意見をまとめたり、次の授業で他のグループのワークシートを見せ合ったりするのですが、同級生の意見はお互いによい刺激になるようです。
保護者の方とお子さんの間でも、本の感想を話し合う機会を作ってみてください。
保護者の方から、「『走れメロス』ってどういう話だったっけ?」とか、「フィロストラトスって王様の家来じゃなかった?(これはもちろん間違いです)」とか、気楽な質問でいいんです。
読んだことが前提となるちょっとした質問を何かを投げかけることによって、お子さんが本の内容について考えるきっかけになります。
その時は反応がなくても、必ず何かしら考えることがあるはずですから。
うまくやりとりにつながらない場合もありますが、少し距離を置いて深追いせずに気軽に質問してみてください。うまくいけば、よいきっかけを作ることができるでしょう。
(※1) OECD生徒の学習到達度調査(PISA):国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
(※2) PISA調査 日本の読解力低迷、読書習慣の減少も影響か – 産経ニュース(2019.12.3)
(プロフィール)
中島克治(なかじま かつじ)
1962年東京生まれ。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。現在、母校である麻布中学・高等学校の国語科教諭を務める。精力的に読書指導を行い、人間的な成長における読書の大切さを伝えている。『わかるをつくる 中学国語』(共著/学研プラス/2020年2月発売予定)、『一生役立つ!子どもの本当の読解力をグッと引き出す方法』(PHP研究所)、『1話15分!12歳までに読みたい名作100』(新星出版社)、『中学生のための読解力を伸ばす魔法の本棚』(小学館)など、著書多数。