学習内容は学年が上がるごとに少しずつ複雑になり、得意科目と不得意科目の差が大きくなるお子さまも多いでしょう。さらに学習指導要領の改訂により、入試問題は「思考力」を求められる内容に変わってきています。
今回お話をお伺いしたのは、当時20歳の1989年から学習塾を経営し、子育てに悩む多くのママさんへの情報発信活動も行なう石田勝紀さんです。塾経営、学校経営、ママさんサポートと幅広く活動されてきた「教育家」の視点で、小中学生におすすめの勉強法と保護者さまができることをお聞きしました。
目次
ママのイライラを「わくわく」に変える発信活動
――石田先生は30年以上、小中高生の教育に携わっていらっしゃいます。日頃のご活動について教えてください。
私は20歳のときに学習塾を創業し、これまでに4,000人以上の子どもたちと接してきました。東京都にある中高一貫校の経営改革も経験し、現在はWebメディア「東洋経済オンライン」での長期連載や「カフェスタイル勉強会 Mama Café(ママカフェ)」の開催、オンラインサロン「Mama Caféコミュニティ」の運営、Voicyでの毎日配信、書籍の出版等を通じて、子育てや教育について広く発信しています。
――「Mama Café」ではどのような活動をされているのでしょうか。
カフェスタイルの「Mama Café」は2016年から続けていて、現在はオンライン開催を含めて年間130回開催しています。参加者のママさんたちにたくさん話していただくため10名定員にしていて、これまでに累計1万人以上のママさんが参加されました。
お子さまに対して一番影響力を持っているのは接する時間が一番長いママさんですが、そのママさんは家事に育児に、仕事にと非常に多忙で大変ですし、ワンオペでがんばっていらっしゃる方もいます。
そんな毎日だとイライラが募るだろうと思い、「Mama Café」では、ママさんたちのイライラを「わくわく」に切り替えられるような話をしています。一人ひとりのお話を聞いて、私自身が教育の現場で蓄積してきたノウハウを紹介するのはもちろん、パンケーキなどを食べながらみんなで大笑いしあって、笑顔で帰っていただくのがポイントです。
ママさんが心を潤し笑顔でいられると、お子さまへの対応が変わり、お子さまの様子も変わります。教育って真面目な話になりがちですが、それだけではだめで、「楽しさ」が必要です。
「Mama Caféプライム」という会員制の定期勉強会も6年間行っています。こちらは大切なことを体系的に学ぶ場で、30年以上教育に携わるなかで効果があった教育メソッドを、アクティブラーニング形式で学んでいくものです。
さらに、「Mama Caféコミュニティ」というオンラインサロンでは毎月Zoom上で質問にお答えしたり、多様な分野のゲストの方とお話したりしています。ママさん自身が自分らしい生き方をしていくための場、いわばママさんの人生サロンです。
――「Mama Café」や「Mama Caféプライム」に参加する方は、どのようにして石田先生を知った方なのでしょうか。
連載記事や書籍、PTAの講演会で知ったという方も多いですが、一番多いのはVoicyでの音声配信「Mama Caféラジオ」がきっかけという方です。Voicyでは毎日、子育てや教育に関する質問にお答えしています。
お子さまの言葉を受けとめ、勉強を楽しむきっかけを作ろう
――今回は小中学生の勉強法についてお聞きします。まず、そもそもお子さまが勉強に対して意欲的でない場合、保護者さまはどうしたらよいのでしょうか。
お子さまの年齢によって異なりますが、小学生ならまず「受けとめる」ことが大切です。「勉強が嫌だ」「楽しくない」と言われたら、その子が言ったことを「楽しくないんだね」と繰り返します。「頑張って」「努力して」と一切言わないことがポイントです。
そのあと、小学校低学年なら「一緒にやってみようか」と提案するといいでしょう。ただ、保護者さまが真面目に勉強を教えるのではなく、勉強を面白くさせる演出が必要です。子どもはゲームとクイズにハマるので、制限時間とヒントを設けて口頭で問題を出してみてください。
問題の設定は、お子さまが好きな世界の言葉を使うといいですね。たとえば「鬼滅の刃」が好きなお子さまであれば、主要キャラクターの炭治郎と禰豆子を登場させます。「太郎さんと花子さんが…」ではなく、「炭次郎と禰豆子が…」に置き換えるのです。鉄道にハマっているお子さまであれば各路線名や時刻表に置き換えてもいいでしょう。
たとえ話は多少のテクニックが要りますから、うまくできなくても気にしないでください。大切なのは保護者さま自身が楽しむこと。勉強が楽しくなるきっかけを少しだけ作り、保護者さまの楽しさがお子さまに伝染すれば、自分から取り組み始めます。
――中学生の場合は、違うアプローチが必要でしょうか?
中学生なら「一緒にやろうか」ではなく、受けとめるだけでいいと思います。「ここのやり方がわからないから教えてほしい」「この問題がわからないから説明してほしい」と頼まれない限りは、カウンセリングやコーチングのように「大変だね」「つまらないんだね」と、とにかくお子さまの言うことを聞いてあげてください。
一方で、日頃から勉強以外の話題で雑談をたくさんして、お子さまと信頼関係を築くことが大切です。何か困ったことがあれば保護者さまに話せる状態なら「数学ができなくて困っている」と勉強に関する相談もしてくれるはずです。そうすると保護者さまからも「塾を探してみる?」「学校の先生に勉強のやり方を聞いてみる?」といった話ができます。
復習が大切。3回間違えたら「宝問題」
――石田先生は今年(2023年)2月に「中学生の勉強法2.0」という書籍を出版されています。不得意科目を克服したり、テストで高得点を取ったりするには、どのような勉強法が効果的でしょうか。
まずお子さまに「勉強のやり方」を教えてあげることが必要です。子どもたちはよく「来週漢字テストをするから漢字を覚えてきなさい」と言われますが、よく考えると「漢字の覚え方」を教わっていません。だから「書いて覚える」というような、時間がかかる割に効果が低い勉強をしてしまいます。
図工・美術で絵を描くときは「描き方」を知る必要があるように、勉強もやり方が大切なのです。
小学校低学年は勉強内容がまだ基礎的で問題量も多くないので、復習として全問取り組んでもいいでしょう。でも中学受験や中学校の勉強に関しては、問題だけ見てわかるものは解かなくて大丈夫です。「できない」が「できる」に変わるのが学びなので、もともと解ける問題は飛ばしてしまいましょう。
いわゆる「勉強ができる子」は、繰り返しテストをすることで覚えています。問題集を解くときは「どの問題を間違えたか」を蛍光ペンなどで印付けし、2周目、3周目は間違えた問題だけを解きます。
3回やってもまだ間違えた問題を、私は「宝問題」と呼んでいます。子どもたちに「テストに出たら君が間違えるのはこの問題だから、しっかり覚えて大切にしよう」と伝えているのです。
多くの子どもは、できない問題を「嫌な問題」と感じています。でも3回挑戦しても間違える問題を「宝問題」と考えれば、間違えることに対するネガティブな感情は消えていくでしょう。
――できた問題ではなく、できなかった問題こそが大事なのですね。
算数・数学なら、できなかった問題のうち、計算ミスで間違えた問題はOKにして流しましょう。計算式を立てられた時点で復習終了です。式が立てられれば理解しているということですし、計算ミスは、テスト本番で見直すしかありません。このように、復習も短時間で効率よく進めることが大切です。
――予習に関しては、何か工夫が必要ですか?
私は基本的に、予習は不要だと考えています。勉強したことを繰り返し復習して定着させることに時間を使ったほうが、勉強は伸びるからです。
大学や社会人の学びの場などでは、事前に調べものや予習をし、不明点を明確にしたうえで参加するという授業モデルがありますが、これが有効なのは参加者の意欲が高い場合です。
小中学生たちは基本的に勉強が嫌ですから、単に新しいことを勉強しておくだけではあまり効果がありません。ただ塾での勉強が学校の授業の予習になることはあるので、授業を楽に受けるためということであればいいと思います。
得意を伸ばせば、他の科目にも応用できる
――これまで多くの生徒さまに指導をされてきて、ユニークだと感じた勉強法がありましたら教えてください。
これは高校生の例ですが、世界史に登場するたくさんの人物名をクラスメイトに置き換えている生徒がいました。「マリー・アントワネットはあの子」とイメージすると覚えやすいのだそうです。クラスメイトは40人いるから、いろいろな人物を置き換えられそうですよね。
――先ほどお話があった、「鬼滅の刃」に置き換えてクイズを出す方法と似ていますね。
まさにそうです。また、勉強の基本戦略は「得意を伸ばすこと」です。学習科学の世界で有名な「学習の転移」という考え方があります。これは、一つの分野ができるようになると、脳内に取り組み方のひな形ができるという考え方です。
一つの科目で勉強方法のひな形ができれば、他の科目に応用できます。「全ての科目を満遍なくほどほどに」ではなく、どれか一つを徹底的に伸ばすことで、他の科目もあとから伸び始めるということです。得意科目を伸ばすことで自信がつくのもメリットですね。
思考力を伸ばすきっかけは「なぜ?」という問いかけ
――2020年度から小学校の、2021年度から中学校の教育課程が変わり、高校入試は「思考力」を要する問題へと変わってきています。思考力とは、どのような力なのでしょうか。
思考力は「考える力」と言い換えることができ、「考える」ことは大きく2つに分けられます。1つは「疑問を持つこと」、もう1つが「共通部分を見抜くこと」です。疑問を持つのは「なぜ?」と考えることですね。たとえば人に住所を訊かれたら答えられますが、これは自分の住所が知識として頭に入っているからです。
でもそこに住んでいる理由を聞かれたらどうでしょうか。「なぜだろう?」と意識が向いたときに初めて考え始める。これが思考力をつけるきっかけです。
2つ目の「共通部分を見抜くこと」の例は、たくさん並んだ計算問題を解く場面。共通部分が見抜けないと全部が全く違う問題に見えますが、見抜ける子どもは問題を見た瞬間に「求める値をxに置き換えて計算する問題だ」と気づきます。共通する解き方がわかれば、楽に取り組めますよね。
高度な学問の世界も「Why?(なぜ)」と「How?(どのように?)」という問いかけの連続で深められています。この問いかけの習慣ができてくると、思考力が身についていくでしょう。
――思考力を育み始めるのに適した年齢はありますか?
10歳を過ぎた頃から、「なぜ?」という問いが浮かびやすくなります。論理的な思考をし始めるのは身長が止まってからともいわれていますので、高校生になる頃には「なぜ?」の発想が必要ですね。
それまでの間に、家庭で日常的に「これはどうしてだろうね?」と問いかけてみることがおすすめです。「もし〇〇だったら?」という仮説的な問いかけも思考力を深めます。
――家庭で楽しみながらできる問いかけのコツを教えてください。
まず、保護者さまが関心を持たせたいテーマではなく、お子さまが楽しめるテーマであることが大切です。関心のないテーマで問いかけられてもお子さまの返事は「知らない」「わからない」で終わってしまいます。お子さまが関心を持っているテーマなら、少なくとも考えようという気持ちになりますし、言葉にしやすいです。
いきなり「ウクライナとロシアの情勢をどう思う?」と尋ねるのではなく、「どうしてこのゲームが中学生に人気なのかな?」といった、その子にとって近しくて興味のある話題で問いかけます。自分の好きな領域や興味がある話題に関してはしゃべりやすいので、表現力も磨かれていきます。
ただ、もちろん保護者さまは忙しいですし疲れていることもあります。余力があるときだけでいいので、「この子はどういう子なのか」「どんな性格でどんなことに食いつくのか」という視点を持ってコミュニケーションを取っていただけたらと思います。
保護者さまの役割はパソコンでいうなら「OS」を整えること
――お子さまの思考力を高めていくうえで、保護者さまが意識すると良いことは何でしょうか。
「学力を上げる」ことと「勉強に向かわせる」ことは別物だということですね。保護者さまの役割をパソコンで例えると「OSを整える」ことです。子どもたちは学校や塾で、国語・算数・理科・社会といったソフトウェアをインストールしていきます。しかし、ソフトウェアを受け入れるOSのバージョンが合っていないとインストールできないですよね。このOSの正体が思考力です。
OSがバージョンアップしないままに学年が上がると、ソフトウェアだけが複雑になっていきます。いわゆる「勉強が難しくなる」ということですね。OSのバージョンアップを助けるのは家庭内の日頃の会話です。保護者さまには学校や塾の先生のような知識は必要ないので、日頃の雑談のなかで問いかけをして、考えることに慣れさせてあげるといいでしょう。
逆にお子さまから何か聞かれたときも「それはね」とすぐに教えるのではなく、「どうしてだと思う?」などと、オウム返しにしてみましょう。お子さまはきっと「わからない」と言いますが、それでいいのです。一瞬でも「どうしてだろう」と思った瞬間は自分で考えているためです。だんだんと、自分自身で問いかけをする習慣ができていきます。
保護者さま自身の楽しい雰囲気が、お子さまの意欲にもつながる
――お子さまの勉強をサポートしたい方へ向けて、メッセージをお願いします。
まずママさん・パパさん自身が可能な限り「ご機嫌な時間」を取り、自分の人生を楽しみましょう。そうするとお子さまが変わり、未来が変わります。お子さまにとって勉強の場は学校や塾であり、保護者さまは先生でも管理者でもなくサポーター、良き支援者です。お子さまが望んでいるのは、保護者さまが楽しい雰囲気をまとっていること。だから私も「Mama Café」でよく言うのですが、保護者さま自身の心が癒され、安心することがとても大切です。
世の中には子育てや勉強に関する情報が多すぎるので、「あれもこれもやらないと」と全ての情報を受け取る真面目な方ほど、パニックに陥ってしまいます。
でも、「良い保護者さま」になる必要はありません。だめなところがあっていいので、まずは自分自身を楽しませ、生き生きとした姿をお子さまにも見せてあげてください。そうすると、お子さまにもその楽しさが伝染しますし、自分に必要なことを自ずとやり始めます。
私が接する子どもたちも、保護者さまがにこにこ・わくわくしている様子が一番嬉しいと言っています。忙しい毎日だと思いますが、ときどきでもそれを思い出していただけたらと思います。
[プロフィール]
石田勝紀(いしだ かつのり)
一般社団法人教育デザインラボ代表理事。都留文科大学国際教育学科元特任教授。20歳で起業し学習塾を創業。これまで4000人以上の生徒を直接指導する傍ら、講演会、セミナーなどを通じて5万人以上の子どもたちを指導してきた。34歳で、都内私立中高一貫校の常務理事に就任し、経営、教育改革を実践。
現在は「日本から勉強嫌いな子をひとり残らずなくしたい」という信念のもと、全国各地でママさん対象のカフェスタイル勉強会「Mama Café」を年間100回以上主催。
『東洋経済オンライン』の長期連載コラムは、累計1.2億PV超を記録している。
著書に『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』『小学生の勉強法』『中学生の勉強法2.0』『子どものやる気の引き出し方』など合計25冊出版。
★石田勝紀公式サイト http://www.ishida.online
★Voicy(子育て・教育チャンネル)で毎日Mama Caféラジオ番組を音声配信中 https://voicy.jp/channel/1270